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蔵出シムーン・シヴュラ 辻谷耕史(音響監督) 第3回第2回から続く>

それでは、アフレコでの苦労などは?

最初は大変だろうなと思っていました。キャストがすべて女性ばかりの現場だということと、さらに20人近くいるってことが。

でも、3話か4話ぐらいまで進んだところで、全然心配要らないとわかりました。タフなんですよ、女優さんが。むしろ、うろたえてるのは僕の方で……。作中のキャラクターとしては放っておけない人達ばかりなんですけれども、役者としては皆さんすごくしっかりしている。そこは、考えた以上に楽でしたね。キャストの皆さんが大人で、今思うと、僕が一番子どもだったかも知れません。オヤジが一番うろたえてて、娘達はしっかりしていた……って感じかも(苦笑)。

ホント、アフレコでは苦労したという気がしないんですよね。みんなが頼りない僕に対して、「何とかしないといけないよね」と盛り立ててくれてたんじゃないかという気がしています。

男にとって女性って、ホントわからないですよね。女性ばっかり集まったら、いったい男はどうしようって思っちゃいますよね……(苦笑)。

アフレコ以外の部分では?

オリジナル作品の特徴というか、ある種、仕方ない部分もあると思うんですけれども、音楽を作っていただく時に、実際のシナリオや、その先のストーリーがどう転ぶかというのが、まだ確定していないんですよね。そうすると、ポイントを見つけていくしかないんです。いろいろ想定しながら、キーワードを選ぶ形で。あと、ストーリーがどう転んでもいいように、いろいろなパターンのものを作っていただくんです。そうすると、いい曲なんですけど、使えなかった曲というのが出てくるんです。進んできた作品の傾向にうまく乗らないっていうのが……それが残念でしたねぇ。

あと、第1話のネヴィリルとアムリアのシーンで、タンゴが流れるますよね。で、その後タンゴを使ったのは、4話でアーエルが敵兵の指を切るシーンなんですが、1話のタンゴは敵機に囲まれた戦闘シーンで効果音もバンバン鳴ってる。4話は静寂のシーンでタンゴが流れる。静寂のシーンでも、戦闘のシーンでも流すことで、迷ったり葛藤したり、揺れ動いてる少女達の心情のテーマになった。そういう意味で、この4話のシーンでかけたことは、本当に大きいことでした。あそこで作品性が確立した感じがしますね。

どこでこの作品の1つのメインテーマであるタンゴを使うかということは、すごいキーポイントだったんです。実は、毎回かけてもいいかなとも思ってたんですが……。よく刑事ドラマで刑事が走り出したら、テーマ曲がながれるとか、恋愛ドラマで決まったシーンになったら必ず流れるといった感じで。ああいうのがないと、観ている方も面白くないんですよね。ここで来てくれないとカタルシスがない、みたいな。タンゴに関しては、そういう部分を早くどこかで作らないといけないなと思ってましたね。ですが、このタンゴを使うのは難しかった。「シムーン」はドラマがわかりやすく進むモノではなかったので、典型的な形では使えなかったんです。後半、全体の世界観とか遺跡の部分では、ワルツを主体に使ったんですが、そんな中、タンゴは暫くかけなくて、25話でパライエッタが自分の性別を語るシーンで、フルに流したんですが、観ている人が「かかるのを待ってたんだよ!」って思っていただけたら、いいなと実は思っていました。そこまで引っぱりたいなという思いはありましたね。1回切って、どこかの“ここぞ”という部分でかけるという。

それと後半、タンゴからワルツへのシフトを打ち合わせしたのは、9話か10話ぐらいの頃なんですよね。「最終的にどうなりますか?」という話を監督にしたときに、「まだ確定していないけど、アーエルとネヴィリルは違う世界に行くような形になるかも」と、聞いたんですよ。そうすると、終わり方として、何かしら次の展開に行く基盤となる音楽が必要になるという話になり、僕がスタンリー・キューブリックの『アイズ・ワイズ・シャット』のテーマ曲になったワルツを監督にお聴かせして、「これがいいと思います」と。そうしたら監督が、「前のタンゴを継承しつつ、音楽テーマ的に新たな展開を図るという意味では、ベストチョイスだ」と言われて、これを後半の音楽を作ってもらう時に提案しましょうということになりました。その時も、監督とイメージの足並みが乱れることはなかったですね。そして実際、佐橋(俊彦)さんが作られた曲も素晴らしいもので、17話辺りからタンゴからワルツへ転換を図ったんですよね。

シリーズ全体を見据えて選曲されていたわけですね。

僕の作り方って、パソコン上で、音楽を仕上がった映像にあてるから、映像との噛み合いをその場で試せるんです。そうするとシーンに合わせ、何十曲あるうちから選曲するとき、まず、この曲はないというのを決め、残った候補も全部すぐに差し替えて聴き比べられるんです。そうして一番しっくりくるものをデータで残しておくんです。「僕はこれがいいと思います」と。そして、他に残った候補が「これもいいかもしれない」というもので。そんな形で組み込んでいき、それらをまとめて監督にダビングの前に聞いていただき、最終的に決定してもらってました。

とんでもない選曲といえば、ドミヌーラが突然、歌い出したシーンがありましたよね。あれって、普通なら、まず彼女がアカペラで歌い出して、後から曲が追いかけていくのがパターンなんですが、それでは面白くない。それよりも最初から音楽が流れていて、そこでいきなり歌い出しちゃうのが面白いと思ったんです。普通じゃないですが、「シムーン」だと、それができてしまうんです。ありえないことが止め絵になると、ウソがウソじゃなくなっちゃうんですよ。映像って、実はウソがないと面白くないんですよね。監督に見せた時は、笑って「これは絶対他ではできないね」と言われました(笑)。でも、「シムーン」ではこれ以上の方法はないと思いました。ここが何か「シムーン」の面白さという気がしますね。

あと選曲でのポイントをいえば……やっぱり遺跡に入ったシーンでワルツが流れて、アングラスの死体を見つけた時に、曲がマイナーからメジャーに転調して、みんなが一番驚くシーンで曲調が明るくなったりとか、この異質感が「シムーン」ならではですよね。おかしいんですけど、あえてこれを使うというところが、「シムーン」ではたくさんありましたね……。高橋理恵子さんも、この遺跡のシーンを観て、ドキドキしたって言ってました。「有り得ないんだけど、ワクワクした」と。それを聞いて、多分そういう風に思っていてくれている視聴者もいるんだろうなと思いました。

楽しかったですよ! 大変でしたけど、10年、20年先に自分が音響監督として関わった作品の中から、みんなに薦めるとしたら、この「シムーン」になるだろうなと。「これは僕の作品です!」と言えるかなという気持ちがあるんです。エンディングにしても、あのタンゴの曲がなかったら、ああいうエンディングにはならなかったろうなとか。それはもう、最初の打ち合わせの時に、「この作品のキーポイントはこの曲なんです」と監督に提案したら、監督もジャストミートだったというところから始まっていますから。絵コンテや資料をもらった時、リベルタンゴという発想が出てくるか出てこないかで、この作品はものすごく変わったという気がします。この曲が1つの作品性を左右してしまったわけで、そうなり得るんだとわかった時に、オリジナルってとても面白いなと思いましたね。スケジュールがタイトなせいもあり、これだけリアルタイムに、キャストや音楽によって作品ができ上がっておったっというのは、ある意味、オリジナルの面白さだという気がします。

ベストをつくした作品と言えますか?

ベストをつくしたというか、自分としてはこれまで手抜きをしたことはないんです。常に自分のできうることを最大限やって……むしろ、やりすぎちゃうところがあるんですよ。入り込んでしまうんです。役者の仕事だと、例えばアニメの場合なら、台本もらってチェックして、スタジオに行って3時間か4時間、そこで結果を出せば終わりなんです。凄くメリハリがハッキリしていて、つねに切り替えしてかなければいけないんですけど、音響監督の仕事って、答えはないし終わりがない。自分で終わりをどこかで決めないといけないんです。その終わりの決め方というのが、僕の中でまだきっちりと決まっていないもので……。時間があると向かってしまうわけなんですよ。パソコンって、そうですよね。スイッチを入れるのは簡単だけど、切るのはすごく難しい。空いてる時間が全部それになってしまって、休みがなくなってしまうんです。移動の最中でも、iPodでサントラを聴いたりしていると、自分で昨夜「これでいいかな?」と組み込んだものも、「あれ?  この曲もアリかな?」と思ってしまう。そうすると、また家に帰って始まってしまうわけです。延々とそれが続いてしまって……。どこかでこれを切らないといけないんですけど、もっといいものはないかと考えていくと、ホントに空いた時間も全部そのことで頭がいっぱいになって……そこを切り替えていく作業が一番大変です。時間があると、もう駄目ですね……(苦笑)。

「シムーン」の場合、シナリオもなく先がどうなるのかわからないオリジナルとしてスタートしていて、決めようがない部分で音楽と格闘をしているので、インスピレーションに任せるしかありませんでした。「Fate/stay night」をやった時は、原作があってそれをクリアする時間があったので、そこからアニメの24話で全47曲の音楽をどう構成するか、音楽を聴きまくって考えられたんですよね。全曲それぞれ明確なイメージを出すことができました。むしろ、原作の方でちゃんとしたイメージができ上がっていた作品だったので、それはそれでブレがなくて良かったです。原作の方に一本の線がちゃんと見えたので、この線に沿ってやって行けば間違いがないだろうと。そこに、自分の「こういう風にしたらもっとラインがハッキリする」というものを重ねていく形で作業ができました。「Fate/stay night」に関しては、原作以外にもアーサー王伝説やギリシャ神話、ケルト神話、魔術、錬金術、神秘学なども読み込みました。取り組む時はそこまでやってしまうんですよ。

そういえば「Fate/stay night」と「シムーン」は1クールぐらい重なりましたけど、その点はどうでしたか?

あの時は「Fate/stay night」と「シムーン」の音響監督としての仕事以外にも、役者として「エウレカセブン」や「BLOOD+」が重なっていたんですよ。「シムーン」の翌日が「BLOOD+」で、「エウレカセブン」の翌日が「Fate/stay night」。そんなのが確か3ヶ月ぐらい続いたのかな。あの時は大変でしたね……切り替えが。「シムーン」が終わって翌日「BLOOD+」に行くと、小清水(亜美)さん、喜多村(英梨)さん、森永(理科)さん、豊口(めぐみ)さんがいて……。当たり前のことですけど、どちらも失敗できない。どちらもやっているので「他で音響監督やってるから、芝居が崩れてるんじゃない?」と言われたら駄目だから、両方ちゃんとできるように自分を追い込んでいくんです。とても苦しいですけど。で、「エウレカセブン」も「BLOOD+」も、重要なキャラクターだったので、凄いプレッシャーでしたね。“役者としても、今まで以上のことをやらなくてはいけない”という意識と、“音響監督としても、今まで以上のことをやらなくてはいけない”という意識で……。でも、それが功を奏したという部分もありますね。その緊張感に負けたら駄目だ!という思いがあったので、しんどかったですが、これを越えないと道が開けない、というか……。どちらにも妥協がなかった――できなかったという部分がありますね。

意外に「エウレカセブン」と「Fate/stay night」の切り替えは、きつくなかったんですよ。役者の後に音響監督だったので。だけど、「シムーン」で音響監督をやった翌日に「BLOOD+」で役者というのは、結構きつかったかなぁ……。「シムーン」のアフレコが終わって、セリフデータをもらって家に帰るんですが、翌朝「BLOOD+」の収録なので、だいたい眠れないんですよ。プレッシャーとか、いろんなものがあって……。なおかつ「シムーン」のオンエアが収録日の月曜深夜1時半からなので、寝つくのが4時とか5時とか。いつも眠れても2~3時間、ほとんど寝ないで現場に行ってました。あと、早く起きないと艶のある声が出ないので「早く寝なければ」という思いと、「今日の『シムーン』のアフレコやダビングはどうだったか」という反省が始まって、頭の中がゴチャゴチャになって……。現場では平気な顔してやってましたけど、結構大変でした(笑)。でも、逆にその効果もあったかと思いますけどね。

周りの人からは役者もやり、音響監督もやり、番組のナレーションとかもやって器用な人と思われがちですが、全然! 僕はかなり不器用な性格なんです。ひたすら努力です(笑)。

フィードバックといえば、シナリオに対して、言葉の言い回しなどを監督によく相談させてもらいました。僕が特に気にするのは、台詞が多い場合ですね。急げばそのカット内に台詞が収まるんだけど、その台詞のスピードだと、心情的に追いつかないという場合の台詞がネックになってて……。技術的には言えるですが、役者の心情的な芝居ができない――というか、役者さんが心情をのせているのはわかるんですけど、急いでいるのがわかってしまうんですよね。そんな時は、監督に「これって、削れませんか?」と相談したり、「次のシーンにこぼれてもいいですか?」と確認したことはあります。

第4回に続く>
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