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ノベライズ編 蔵出シムーン・シヴュラ 岡崎純子(脚本家・小説家/メガミ文庫「シムーン」1巻・2巻執筆)第2回第1回から続く>

監督の言うところの“おじさんたちが作った女の子像”ですが、逆に女性の岡崎さんから見て、その辺はどう感じられましたか?

女の子たちがみんな、すごくいい意味でサッパリしていましたね。どうしても女性が女性の集団を描く時には、女の子の嫌な部分というのを、誰かしらにちょっとやらせてしまうんですが(苦笑)、そういうものを入れる余地がなかったんですよ。そういうことをするようなキャラクターが1人もいなかったので。

だから、そういうシーンを描かずに済んだのは、私としても気持ちが良かったです。普通は、それを描かないとウソになっちゃうんですよ。女の子がいっぱいいて、恋愛問題など描いているにも関わらず、ドロドロした部分が出ないっていうのは。学園物とかだと、逆にそれはリアリティがなくって、ありえない話なんですよ。女の子が共感しづらくなっちゃうんですよね。ヒロインがいて横恋慕する人がいたり、友達なんだけども嫉妬があったり……というのが普通なんですよね。――なんだけど、「シムーン」の世界観だと、そういう女の子がいないので。女の子たちのいい部分……多分それが、男の人が設定したが故に、女の子たちの見たい部分しか見ないで済むように、もともと設定されてしまっているんで。ホント、そういう部分は書く必要がなかったですね……。

マミーナとかも、女の人が作ってああいうキャラクター設定だと、もうちょっと“イライザチック”になるかもしれないんですけど、あのマミーナの必死さ加減が、私には愛おしかったですね。……って、マミーナの話ばっかりしているんですけど、他のキャラの話もいっぱいあるんです(笑)。

そういう意味で、男の人が作ってくれた女の子のキャラクター、女の子だけの世界観だったので、ホントに美しい部分だけを、ありえない別世界だからこそ描ける美しい物をたくさん書かせていただいたなという、そういう書き手としての幸せを感じています。フィクションだから、アニメとかマンガの世界だからこそ、ありえることを書けて良かったなぁ、と。

女の人が作るカイムとアルティは、もっとドロドロになると思いますよ。姉妹間の嫉妬が一番怖いんですから。ホント、怖いですよ。編隊は組めないですね(笑)。「後ろから撃たれる!」みたいな。女の子の場合はありえますから。それが、丁度いい歯止めがかかって、美しく書けましたね。

それも、理想は理想でも、男の人が理想化している、男の人だけに都合のいいキャラクターではなくて、女の子から見ても、「そう! 私たちもこういう風に生きたいんだよ!」という女の子たちだったんですよ。見た目の可愛らしさとか、行動とかのいじらしさとか、全部含めて。さじ加減がいい感じでしたね。キャラクターのそれぞれの配分とか配置も良かったですし。そこに西田さんの絵があって、細かいキャラクターの肉付けがあって、すごくいいキャラクターたちだと思いますね。それを私はいきなり、「はい、どうぞ!」って最高級の食材を並べられたシェフみたいでした(笑)

とはいえ、描かなければいけないキャラクターの数は多くはありませんでしたか?

大変ですけど、男のキャラクター12人だときついんですが、それに比べれば女のキャラクター12人のほうがまだ楽ですよ。

女性の視点からすると、男のキャラクターは1人を立てるのに、全員の良さを平等に組み合わせたつもりでも、結局は誰かがヒーローでそれ以外は引き立て役という位置づけになってしまうみたいなんですよ。見ている女の子の気持ちからしても、関わってる男性の気持ちにしても。

でも、女のキャラクターは、それぞれ違う持ち味があって、何人かで助け合って1つのシチュエーションを作るというのは、ゼンゼンありなんですよ。関係が対等なんです。

男のキャラクターの場合は、書いている方はそんなつもりはなくても、どうしても誰かがヒーロー、フォロー役、切り込み隊長といった役割分担に、映像で観るとそうなってしまうんですよね。だから、その不公平感をなくすのが大変なんです。

女の子の場合は、それぞれの持ち味をちゃんと書いてあげると、それぞれをちゃんと観ている人も楽しめるんです。ドラマ的な比重として、対等に扱えるんですよね。

女の子というのはおしゃべりを楽しんでくれる生き物なので、5~6人が1つのシーンに出てきても平気なんです。通りすがりの女の子が会話に入ったりとかしても、不自然じゃないし。とにかく1つのシーンにたくさんの人数を入れるというのが、女の子はすごく作りやすいですね。

男の子の場合、5~6人でワーッと話すシーンは、そんなにたくさん作れないですよ。何かについての作戦会議みたいなものにしても、リーダーがいたりとか、全部役割分担がしっかりしていて。みんなでワーッとクロストークするということはないんです。それに、いきなり通りすがりの男の人が「何なに、それ?」って会話に入ってくるのは、結構、口が軽いというか軽いノリのキャラとかでないと。

「シムーン」でも、アーエルとかネヴィリルは、そういう会話の入り方はしなくて、フロエにだいたい振られていましたけど。

ホント、男の人の場合は、みんなでキャピキャピしゃべったりとかは、あんまりしなくて、そういうシーンを書く時に、ホモ臭くならないよう非常に注意を払わないといけないんです。だけど、女の子の場合は、ものすごく深い内容まで、みんなでワイワイ話しても平気なんですよね。だって、女の子はそういう生き物ですから。女は、しゃべってないと死にますから。ものすごく美人で、ものすごく何でもできて、女の子から距離を取られてしまう。そういうキャラ設定の人の場合は、孤高の存在なんで1人でいて平気なんですけど。

岡崎さんは、男性のキャラをたくさん書くのが得意だと思っていました。

キャラがたくさんいるのを書くのが好きなんです。男でも女でも、人間じゃなくても。ロボットでも(笑)。

そういう意味では「シムーン」の群像劇は、やっていて面白かったですね。分量が制限されなければ、いくらでも書けます(笑)。制限がある中でも、やっぱり女の子の方がキャラクターの数はこなしやすいですね。ただ、ギャルゲーみたいな感じで書いてくれと言われると、つらかったと思います。共感できる女の子たちの群像劇で、そんな女の子がいっぱいだからOKでした。

小説を書いて一番思い入れのあるキャラクターは、誰ですか?

パラ様に共感できるところが多かったです。胸が大っきいのがコンプレックスなトコとか。私の場合は単に太っているともいいますが(笑)、女友達からセクハラを受けることが多くて。男の人だったら、思っても普通は言わないじゃないですか。でも、女の子は言うんですよ。触るんです(爆笑)。あとは、ホントは甘えたいのに、その人の側から離れられないから、お世話をしちゃって、いつの間にかその人の頼られキャラになっているところとか。何かこう、“わかるよ。パラ様、その気持ちー!”

小説の2巻の方に、なんでパラ様は最後にああいうことになったのか、彼女がああいう道を選んだ理由、ということに関しては、監督から書いてほしいとリクエストがあったことではあるんですが、自分としてももともと書きたいと思っていたんです。パラ様が子どもを抱っこした時に、“欠けていた何かが埋まった感じがした”という。それは自分の実感の中にもあったんで、ちょっと共感したはずみで書いてしまいました。

他のキャラとしては、ロードレアモンが、最初は他のみんなから空気のように扱われていたところが、非常に面白いな、と。CDドラマとかだと、しゃべらないといけないのでやりづらいんですけど、小説だと文章の隙間隙間に書いておけば、わかる人はわかって、「ここでも無視されてる」「ここでも無視されてる!」って。ほんの1行なんですけど、ちゃんと読んでいる人には、そこで笑えるという遊びを仕込んでいます。

マミーナが出てきて対立構造がハッキリするまでは、ちょっと地味なキャラとして描かれていましたよね。お祈りの方に逃げちゃう、とか。それでも地味なりに遊ぶところがあったので、そこが小説として書く時には面白かったですね。

非常に難しかったのはユンです。彼女は、黙っていてもそこにいるだけでとても絵になる人だったので、あの存在感をどう文字で表現するのか、というところが、難しかったです。結局、そこに存在するだけで場がすごく締まるんですけど、何だろうなと思ってアニメを見ていたら、最後ホントに言葉の要らない存在になってしまうじゃないですか。客観的に見ても、つくづく素晴らしい構成だと思うのですが、それを小説にするには、その説得力を説明するためにエピソードを新たに作らないといけない。でも、それをする分量的な余裕がなかったのが、かなり心残りでした。カゴのシーンとか後半にありますが、その前から、何となくこう、みんなが1つになっている時、実はその中心にユンがいた、みたいなシーンを1つ作りたかったんですよ。最後のああいう展開を暗示するような。みんなが和気あいあいと盛り上がり始めた頃の、2巻でいうと冒頭の10話以降の辺りで入れたかったんですけど、結局ストーリーの展開上の都合で、無理でした。そういう意味でユンは、もうちょっと描き込みたかったですね。

第3回に続く>
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