辻谷耕史(音響監督) | [ 第1回 ] | [ 第2回 ] | [ 第3回 ] | [ 第4回 ] |
オーディオコメンタリー番外編 | [ 第1回 ] | [ 第2回 ] | [ 第3回 ] | [ 第4回 ] |
演出&制作編 | [ 第1回 ] | [ 第2回 ] | [ 第3回 ] | [ 第4回 ] |
野崎圭一(音楽プロデューサー) | [ 第1回 ] | [ 第2回 ] | [ 第3回 ] | |
岡崎純子(脚本家・小説家) | [ 第1回 ] | [ 第2回 ] | [ 第3回 ] | [ 第4回 ] |
監督&ライター編 | [ 第1回 ] | [ 第2回 ] | [ 第3回 ] | [ 第4回 ] |
<第2回から続く>
西田さんの描いた設定画を見ているだけで、どんどんキャラクターや物語の広がりが伝わってくるというのはすごいと思ったんですが、何かその点で大変だったことは?
西田:苦労したという覚えはあまりないんですよ。コスチュームを考えるのは不得意なので、一番最初に言われたトルコ風というところを意識して、メインキャラの服装をデザインしてみたりとか。あと、まあ、宮国は割と優雅な国で、「“優雅な国”対“インダストリアルな国”」みたいな対立構造があり、ちょっとオリエンタルな――昔の貴族とかが着ていたような感じで、制服でも風雅であったり、グラギエフたちに「おリボン」と言われたんですけど、帯を入れたりといったコスチュームで、考えて悩むことはありました。でも、キャラクターは割とみんな自然に出てきて……。ホント、私の中の引き出しの中のものを全部持ってきたという感じでした。物量的にしんどかった……ことはもちろんあるんですけど、ミリタリー的な資料をいっぱい買ってきて、がんばりました。
監督とは、各話の細かい設定的なやり取りはなかったんですか?
西村:なかったかなぁ……。打ち合わせは電話で3話分ぐらいまとめてして、その段階では設定の発注表があって、それに基づいて話をして……。困ったことはなかったですね。「それでお願いします」「はいはい」って感じで、どんどん進んでいきましたね。上がってくるデザインは基本的に間違ってなくて、良いものばかりでしたから。そういう意味ではスムーズだった。だから、最終話であんなに新キャラを出すという暴挙にでたんです(笑)。
(一同・笑)
西村:最終話で新キャラが17体もあるなんて、普通やらんでしょ!
松田:現場のスタッフに自分も怒られましたからねぇ……(苦笑)。
西村:それを、最終話で作監(作画監督)をやる人にデザインを発注するんですよ! 最終話にしか出てこないのに(苦笑)!
西田:25話、26話をやっているときって、自分でも信じられないくらいすごかったですねぇ。監督にもメールでお話したんですけど、届いたシナリオと絵コンテが、面白いわけですよ。絵描きにしてみれば、描きたいところばかりがある絵コンテというのは、一番エネルギーになるんですよ。その勢いが、最終回終わるまで止まらなくて……。「こんなに面白い最終回のコンテで終われるなら、描きたい! 描きたい!!」と。頼まれてもいないキャラまで(笑)。「エリフ、アップ欲しいから1カット増やしましょう」と(笑)。
西村:振り向いたエリフは、カッティングの後で増えたカットでした……(笑)。
西田:だって、せっかく作ったキャラなのにアップがないなんて(笑)。1話からずっと見ている人にとっては、「もっと見たい!」と思うんですよ! そういう風にワガママを言うことは、多分「シムーン」でなければ、自分はしなかったと思いますね。もし、最終回に「宇宙人がいきなり攻めてくるので、宇宙人を新しくもう22体作ってください」と言われたら、「やってらんねー!」ってなるんでしょうけど(笑)。2年間つき合ってきたキャラクターたちと、もう少し深くつき合えるというのは、私の中ではすごく自然な作業でした。
キャラクターデザインをした上で、総作画監督まで担当されたわけですが。
西田:描く力を起こすために、監督が私の書き加えた設定を生かしてくれたりして、「私もこの作品の世界観を作ることに関わっているんだ」という楽しさ、快感もあったので。逆に言うと、「私が描きたいキャラは誰にも渡したくない!」というような、変な独占欲みたいなものが出てきちゃって……。スケジュール的なものを考えたら、「私が描く!」なんて言わなきゃ良かったと思いながら、それで何とかこなしていっていました。でも、やっぱりしんどかったですよ。ブログでは結構楽しい部分しか書いていないんですけど、家では泣いたり暴れたり。一度は仕事机をムチャクチャに壊して帰ったこともあったし……(苦笑)。つらくなかったわけじゃない。でも、それは次の作業に戻っていくための、大事な作業というか。……それぐらい魂込めていました。それが実際、絵に反映されているかは、さておいて……(笑)。
西村:机、ぶっ壊しちゃったのか……!
西田:でも、絶対そういう時期ってくるんですよ。シリーズをやっていたら。1クール13話のシリーズをやっていたら7話ぐらいにくるし……。今回は2クール、26話でしたけど……。「シムーン」はそれがくるのがちょっと早かった(笑)!
(一同・笑)
西村:ときどき俺のところに、各話担当の演出さんが「西田さんから修正が戻ってきたんですけど、見てもらえませんか」とやってくるんです。すると、レイアウトから表情から、元の絵とは何から何までぜんぜん違う修正が入っていて……(笑)! 「こんなにエロくなっちゃって、いいんでしょうか……」と、聞きにきましたね(苦笑)。
西田:えええっ……!!! そんな憶えは……!!
エロくなって戻って来た……?
西村:うん。吉田(俊司)さんとか、特に生真面目な演出さんは「ここまで(エロく)きちゃっているんですけど、いいんでしょうか?」と。……全部、OKにしましたけどね(笑)。
西田:あいたー……(苦笑)。
(一同・笑)
松田:後半になればなるほど、特に演出や作監から「プロデューサーに確認したい」という問合せが自分に来ましたね。「これはアリなのか?」「ないでしょう、コレは!」とか。「OK、コレ。通し! でも、大人の事情によりごめんなさい(NG)にするかもしれないけどね」と対応したのは、かなりありましたよ。僕にですら相談がきましたね。
西田:それは、露出度とか……?
松田:露出であったり、描写的な微妙なものであったり。
西田:でも、「シムーン」は微妙なものを扱う題材なんで、ある程度、性的な部分にも踏み込まないと……。踏み込んでこその「シムーン」なんで。
西村&松田:その通り!
松田:オンエア形態がテレビ……それも地上波に決まった時点で、この企画と設定は結構な大冒険なんですよ。とある方面から「直してよ」って言われたらどうしようかというくらい。1話のアフレコが終わるまで、メインスタッフはホントにドキドキでした。
西村:いや、ずーっと洒落で言っていたことで、「最低限のオンエアできるラインを設定しよう」ということがあって。オンエアだけはできるもののレベルにする。それは割と本気だったよね(笑)。洒落じゃなくて。
松田:どこまでいったらNGなのか、やっぱりね……。多分、ぎりぎりのラインまで「シムーン」はやっていたかなぁ……?
西村:でも、真面目に思っているのは、「本気で作ったから通ったんだ」ということ。
(一同・頷く)
西村:「おらおら~!」と、単純なノリだけで作ったわけじゃないというところを、ちゃんと見てくれたハズだという思いはあるよね。
松田:監督のすごいところは、つんのめり感で常に前へ前へと進んでいるところ。西村監督くらいの、いわゆる“オジサン”という年齢になってくると、「オレの作風はこうだ!」と完結している方々がいっぱいいらっしゃる。その中で、常に前を向いて、反省ももちろん、現状のフィルムに満足しないところは、一緒にやっていて「すごいなぁ!」と。ほかの人の意見を積極的に取り入れようということ自体が違う。「オレのフィルムを作るからには、こういう風にしてもらいたいんだけど」というところで、監督ワールドを作って、その中で監督をやっている人もいるけど、そういうタイプとはまた違って、みんなの色を見つけて、その中に自分の色を乗っけていくのが西村監督の作り方。どちらが良いか悪いかは、皆さん評価が別れると思うんだけど、西村フィルムというのは、意外に「みんなが作ったフィルム」という面がうまくできていくような気がしています。下手をすると、若手の監督さんとやっている気分みたいなのを感じるんですよ。今の監督のお話を聞いていて、ホントにそう思う。
というか、「後半戦がどんどん面白くなってくる。前半がつまらない。自分の反省するところだな」というのは、若手の監督のセリフですよ(笑)!
(一同・笑)
松田:いやもう、すごいです。これからも、絶対そうやって次に次にいく。新しいフィルム、新しい挑戦というのを、西村さんには50過ぎ、60になっても続けてほしい。「そろそろ歳だから、オレも枯れちゃったからさ、1人でフィルム作るんだ」とか、「再就職、探さなきゃ」とか、そういうことではなく。常に常に、新しいジャンルへ、新しいジャンルにいけると思うんだよね。今、某作品でシナリオをやってもらっているのですが、やっぱり、その柔軟さが出ていて素晴らしいです。「シムーン」も西村ジュンジとして、シナリオをばんばん書いてもらいましたが、どんどんどんどん、シナリオが良くなっていきましたよね。25話で、もう!
西田:パライエッタの台詞ねー! もう、びっくりしたよねー!
松田:3話と25話のシナリオを比較して、西村さん個人でも、3話のシナリオを見たら、「あーっ! オレはー!!」と感じるところは、あるんじゃないかなと思うんですよね。いやもう、すごいですよ。
西村:まあ、それは、その……(苦笑)。そう、「シムーン」に関していえば、これも賛否両論ありましたけれど、「一体、カメラはどこにあるんだ」と。
(一同・頷く)
西村:彼女たちが知り得た以外の情報は、画面には出ださない……。ある意味、無茶なやり方なんですけれど、でも、それをやりたかったんですよね。つまり、彼女たちの焦燥感を反映させるというか、画面の中に溢れさせるというか。だからこそ、彼女たちが知らない事は画面に出てこないから、何も説明されない。……無茶だよね!
でも、リアルですよ。客観的な描写がほとんどなくて、戦争で負けたパイロットの主観にカメラを置いて物語を描いた作品は、きわめて珍しいですよね?
西村:そういう風に見てもらえると、すごく嬉しいです。
松田:戦場で前線にいる人たちというのは、実際、上層部の大人の都合というモノは、見えてないのが普通ですよね。その上層部の政治的な部分を描いてしまうと、ただの軍事物になってしまって、ゼンゼン青春物じゃなくなってしまう。だから、それは最初に監督を含め皆さんで、政治色はなるだけ別の扱いにしてしまい、極力本編では描かないと決めました。その点は大賛成だし、オレとしては大成功だったと思う。1人でもそういう風に思ってもらえたら、成功ですよ!
西田:そういえば、今回メインキャラクターで、12人の女の子がいたわけですけど、監督としてはどうだったんですか? ツンデレとか、眼鏡っ娘ならこうだろうとか、ドジっ娘とか、いろんなカテゴリーがありますけど。そのあたりを研究して並べたのかどうなのかというところが、気になっているんですけれど……?
西村:それは、さっぱり、ありません(笑)。
松田:ツンデレってなーに? という感じでしてね(苦笑)。