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<第2回から続く>
クライマックス前で戦争が終わってしまって、自分たちの国が降伏してしまう。そして勝利国の間で、勢力分割がなされる。現実世界でいえば冷戦期のドイツか、朝鮮戦争が始まりそうな時代状況のなかで、召集令状が届く頃をクライマックスに持ってくるという。リアルだけれど、フィクションの構成としては、型破りな物語だったわけですが……。「最後に彼女たちが選択する話」と言うのなら、普通のアニメなら、戦争中で最後の決戦の時に、主人公たちの選択があると思うんですけど、どうしてこの構成が生まれたんでしょう?
西村:どうよ? って思うでしょ?(笑)
岡田:どうよって思うでしょって、それこそどうよ?(笑) ラストについて、“戦闘で盛りあげるべきか?”という展開案は最後まで残っていたんです。でも、やっぱりしっくりこなくて。「この作品で本当にやっていきたいことは何なのか?」ということを詰めて話しあっていた時に、ふっと思いついたのが「悲しいピクニックの話をやりたい」ということだったんです。彼女たちに限らず、人は選択をくりかえすことで大人になっていくと思うんです。でもそれが、能動的にではなく強引に押しつけられた場合は、どんな結果が待っているのかなと思って。状況からポツンと置いてかれちゃって、そのうえでむりやり選択を強いられる……それってせつないけれど、現実ではよくあることだよねって。戦いの中で叫びながら、「私はやるー!」みたいな熱いものではない。全てを通り過ぎて、受け止め切れない物がいっぱいあって。それでも、拒否するという選択肢はどこにもない。だからこそ、ちゃんと自分で選択したい――理不尽な選択をせまられても、自分はそれを「笑って、前向きに受け入れたんだ」というムードがほしいなと。そこから、悲しいピクニック……24話を、ひとつの区切りにしようということになったんです。その過程を自分たちも経験してきたからこそ、大人たちも彼女たちの姿に思うところがあって――という。少女たちの物語を書こうとすればするほど、逆に大人の物語というのが重要になってきたんです。この2つの物語は、切り離せないところがいっぱいあるなぁと。それで、こんな構成になりました。
西村:ちゃんと彼女たちが選択する話にしたい、というのがあったんです。少なくともその前の展開で、彼女たちの戦闘が戦争の状況を左右しないんだったら、当然そうなりますよね。彼女たちの戦闘が、物語が一番最後に来るわけがない。……でも、けっこう不安だったんですよ。
岡田:うん、最後まで迷いまくりましたね。
西村:かなり不安だったので……(笑)。
岡田:「ホント、大丈夫かなぁ……?」とか、監督は打合せの時にいつも不安そうに言ってて……(笑)。私は、変な勧誘をしているかのように「大丈夫っスよ!」「大丈夫っスよ!!」(笑)。
(一同・笑)
西村:最後に自分が脚本を担当した25話は、割とアッサリ書けたんですよね。
プロデューサー・松田桂一(以下、松田):25話は西村監督が、シナリオライター”西村ジュンジ”として開眼した話数ですよね。
西村:確かに、何か自分が神がかって書いちゃった話数です(笑)。「こんなこと書くなよ」みたいなことがいっぱい書いてある。
岡田:あの25話は、シムーン以外の作品では確実にダメ出しくらいますね。
(一同・爆笑)
岡田:今までつみ重ねてきたものが、ぽーいと放り出されてるというか。カイムとか、いきなり語り出しちゃうし。前の話数の展開からして、いきなり「アルティと一緒に地獄に落ちる」みたいなことを言うなんて、「とうとう壊れちゃったのかカイム!」みたいな(笑)
松田:監督から、25話の脚本が上がってきたときに、岡田さんと2人で、スタジオの屋上で会議したんだよね。
岡田:ええ、もう緊急会議です(笑)。でも、なんだかんだと言いながら、あの25話はすごいインパクトだったんですよ。最初はけっこう直してもらおうと思ったんですけど、もうこのままでいいや……っていうかこのままがいいやと。あとは、ちょっとだけ整合性つければなんとかなると思いました。
西村:25話の脚本を書く前の段階では、やりたいこともありつつも、脚本としての書式とか、やっぱり気になってたし……シナリオとして成立しているか? といったことが気になっていたんです。それが25話の時には、ゼンゼン気にしなくなっちゃったんだよね、突然。「このセリフを書きたい!」って。岡田さんが言ったみたいに「こんなことをあの2人はしゃべらん!」みたいなセリフをしゃべっているわけだけど、その次の汽車のシーンは、もう、自分は何書こうとかなんて考えないで書いたもんね。「泉でああいうことになって、帰りの汽車ではきっとこうなるに違いない!」そんな確信に近い感じの書き方になっちゃった。
岡田:監督は真面目なので、設定に絡む話を書いてもらうと固くなっちゃうんです。せっかくの魅力がもったいないので、固い話は私が担当して、監督には自由に暴れてもらいたいなって。
松田:実は、岡田さんの掌の上で監督が――。
西村:それ、「実は」でも何でもないよ!
(一同・笑)
岡田:25話の自由さは、ちょっと予測不能でしたけどね(笑)。監督のシナリオは、「ここが書きたい!」という思いがすごく伝わってくるんです。ただ、書きたいところ以外のシーン、とりあえず消化しなくちゃいけないシーンとかはどうしてもトーンが沈んでしまうというか。愛情の差が、面白いほどに文章にあらわれてて(笑)。
西村:申し訳ない。
岡田:後半のシリーズ構成は、監督と打合せをして考えたんですけど……監督の脚本担当話数で、構成とはかなり違う話になっちゃって(笑)。
(一同・笑)
岡田:そうすると、「あ゛~~~~!」って(笑)。ここでこれを消化してくれないと、次の話数につながらないよーって、頭抱えて。で、最初に決めた構成通りに修正しようとするんですけど……やっぱり、いじっちゃうと面白くないんですよ。だからもう、作品の行く末は監督がケツを拭いてくれるっていうから、ホンに関しては自分がなんとかしようかなと。……なんて寛大ぶってみましたが、実際のところ、監督にはしょっちゅうキレてましたね。西村ジュンジは、すごい離れ業をつかうんですよ。シナリオ作業に行き詰ると、勝手に設定を付け加えて、SF設定の人に裏で確認を取っちゃうんです(笑)。でも「そこを変えたら全部変わるだろう!」と(笑)。
(一同・爆笑)
岡田:「もう~~~~!」って(笑)。人のことをわがままライターって言っているのに、自分はそのはるか上をいってるんですよ(笑)。
西村:(笑)すごく好き勝手にやらせてもらいましたよ。
(一同・笑)
西村:で、何かあったら、「オレは監督だー!」って言っていれば良かったりするわけじゃない?(笑) 言わなかったけど。25話に関しては、かなり楽しく書けました。セリフに関しては、「キャラが変わってしまうのも重々承知!」みたいな部分があるわけですよ。でも、それが自分の中では気持ちが良かったわけ。わかってるんだけど、言わせたくて仕方ない。「言わせたいんだ!」って想いの方が強いの。
岡田:監督が楽しんでくれたぶん、私はひーひー言ってました(笑)。下手に修正したくないので、シナリオと睨めっこして。せめてこのひとセリフ入れてくれればなんとか繋がる、というギリギリのラインを見つけ出そうと……監督は気付いてないかもしれないけど!!
(一同・爆笑)
西村:……気付いてたさ(笑)。
松田:25話は珠玉の一本でしょう?
岡田:うん。あれはもう、手放しで大好きです! 他の人にはちょっと書けない。監督のシナリオは他にも何本か読んだことがありますが、今までの西村ジュンジライター人生の中で、最高のシナリオだと思います。
(一同・頷く)
岡田:確か、「『君の名は』みたいなシーンを入れてほしい」と、監督に脚本を発注したんですよ。互いに別々の場所に捕らわれているので難しいかなと思ったのですが、監督は「何とかする」と。それで出てきたのが、距離が離れてても壁にキスするというあのシーンで。距離も場所も恋心には関係ない、っていうのが最高で。「あー、キタ……!」と思いました。
そういう意味では、シナリオの発注は監督からではなく、岡田さんからの発注を受けて監督が書く、ということですか?
西村:うん。割と上手く監督とシナリオライターの2役をやったんですよ。
岡田:じ……自画自賛……!
(一同・爆笑)
岡田:かっこよすぎですよね。結局はオレの手の内!(笑)
西村:(笑)今のは監督発言。さっきのは、ライター発言(笑)。
(一同・笑)
西村:――つまり、監督の“西村純二”とシリーズ構成の岡田さんが打ち合わせをして、そして岡田さんの方からライターの“西村ジュンジ”に担当話数を依頼して書く、という形ですか?
西村:ええ、そうですけど……後半はそういう意味ではちょっと、ヤバかったですね(笑)。確かに自分が、SF設定の人に電話かけて基本の設定を変えようとするとかって、どう見たってジタバタしてる感じですよね。それはやっちゃ駄目でしょう(笑)。そんなわけで後半、ちょっとジタバタ感がありましたけど、そういう意味で逆に、追いつめられて良かったと思います。少なくとも、シナリオに関しては「オレは監督だ!」発言をする気は、全くなかったです。
岡田:普段から親しいぶん、遠慮がなくなっちゃうとこもありますしね。「これぐらいは了解をえなくてもいいんじゃないか?」みたいなところは、私にもありました。ジタバタは同じです(笑)。でもやっぱり、監督と2人でシリーズ構成表を作った時から、お互いの意思の疎通はあったので……監督のシナリオに関して、全く考えと違うということはなかったです。お互いに共有できる感情があって、ある瞬間、「見えたね!」とかって言い合うことが頻繁にあったりして。
西村:はい、ほんとに「見えた!」ってディーンの屋上への階段で、携帯電話に向かって叫んだ覚えが……。
岡田:シムーンの世界には謎がすごくいっぱいあるけれど、後半で全部の謎を解明しようとすれば感情の部分がおざなりになっちゃう。“何を拾って何を拾わないか”という要素の選択もあったわけですが……。さっきの話とかぶりますが、“途中で戦争が終わった”というところで、監督と同時に「いけるよ!」と叫んで(笑)。「シムーンは、ここで終わらせられる作品なんだ」と思えたときに、不安は確かに多いけれど、走りぬけられるかもしれないと思いました。最終回を書き終えた時は、「はあああぁぁぁ……」と抜け殻のようになってましたが。でも読みかえしてみると、監督のことを言えないくらい、私もたいがいわがままなセリフ書いてるんですよね(笑)。ほんと、シムーンじゃなくちゃ最初から書き直しだぁみたいな。
西村:事前に決められていた重要なイベントで、岡田さんに参加してもらった後で変更されたやつも……。
岡田:マミーナですよね! 実は、最初私が入った時点では、ユンが死ぬことになっていたんです。でも、キャラクターを死なせるということにすごく抵抗があって。もし誰かが死ななきゃならないとしても、それはお話が進んでみないと分からない、と思っていたんです。それで監督に、「キャラクターの誰が死ぬかという問題に関しては保留にさせてくれ」と頼んだんです。でも当然のことですが、脚本を進めていけばますますキャラクターたちに気持ちが入っていく。もう、誰も殺したくないと。でも、あるとき何となく「マミーナって、もしかして死んじゃうかもしれないなぁ」って感じたんです。なんというか、不安に似た感じで。それで、監督に「もし誰かが死ぬとしたら、マミーナなんでしょうか」とおっかなびっくり言ってみたら、「オレもマミーナだと思ってた」って。でも、自分で書くのはキツくて……殉職話は「監督に任せます」と。私は、最初からマミーナを書いてきたわけじゃない。そんな私がマミーナを……登場人物を死なすことは、簡単にやってはいけないと思ったんです。なので、監督が書いてきたマミーナの一連のシーンには、私はひとつも注文をつけてません。直しが入っていない、そのままの形です。本当は次の話数も、もうちょっと違う要素をやろうと思っていたんです。とにかく、謎や設定を消化し切るのだけでもカツカツだったので、先に進まなければいけないと……。ただ、監督のシナリオを読んだ時に、胸が痛くなってしまって。このままマミーナが消えてしまうのは嫌だって。もう亡くなってしまったけれど、それでも彼女には叶えられる願いがあるかもしれないと思って。そこで「もう1本使って、マミーナを見送りたい」とお願いしました。
西村:“ユンが死ぬ”という案は、物語が動き出す前、話の展開をどうしようか考えていた頃の話でした。結果的に、何故マミーナが選ばれたのかというと、彼女が一番早く主要キャラたちの中で成し遂げた人間だったから、というか……。
岡田:逆に言うと、死をもって成し遂げられるんですよね……。この辺りの話数は、お互いのキャッチボールで進んでいました。監督の脚本を見たから私はこう書いてみた。そうすると、監督の方も、私の脚本を見たからこうしてみたと言ってくれたり。当初の構成とは、大きな部分は変更していないけれど、印象はがらりと変わったとおもいます。
中盤以降のストーリーの流れは、キャラクターたちのミクロな状況と、戦争の大局というマクロな状況が、絶妙の距離感を取って絡み合っていたと思いますが?
岡田:そう言ってもらえると、嬉しいです。最終回に関しても、最初は“アーエルとネヴィリルが飛び立つ”ということしか決まってませんでした。監督も「任せたから!」みたいな感じで。ただ「めでたしめでたし、みたいな感じにしないでね」とだけ。どうしようと思いましたが、書き始めたら止まらなくて……いろんなものがこみ上げてきて、鼻水すすりながら書きました(笑)。
最終回に関して言うと、水の中に半分沈むアルクス・プリーマの姿は、第2次大戦で沈められた日本の連合艦隊の姿と同じで、敗戦した日本人が見た風景を連想させるんですが、それも狙ったわけではないと監督から聞いたんですけれど……。
岡田:はい、狙っていませんでした。ご期待にそえずスミマセン(笑)。私としては、「シムーン」の中でフロエがすごく大きな役割を担っていたと思っているんです。あの子は能動的だし、キャラクターも立ってるし、自分でガーッ! っていくノリなんだけど、ある意味一番大人なんですよね。そしてこの作品では、大人は本当の意味で自由に動けないんです……。以前、西田さんとも話したんですが「フロエはアーエルみたいになりたかったんじゃないか」って。「人は誰しも人生の主人公」と言いますけど、フロエは主人公ではなかったと思うんです。そしてフロエは、主人公にはなれない自分自身をよく知っている――だからこそ、彼女にとっての主人公であるアーエルに憧れている。恋とはちょっと違うんですよね。その辺の気分を、フロエのセリフに関しては意識していました。フロエには、物語の最後にアルクス・プリーマの側にいてほしかった。一番どこへでも飛んでいかれそうな子なのに、実は誰よりも飛ぶことを恐れる。つねに物語の観察者だったフロエの隣に、動けなくなったアルクス・プリーマを描きたいなって。日本の連合艦隊の話を監督から聞いたのは、その後でした。ただ、沈められた連合艦隊の空母の写真自体はどこかで見たかもしれないので、無意識の内に影響されたのかもしれません。
西村:全体的な話でいうと、やっぱり「シムーン」のストーリーの軸をキャラクターの話にもっていって、そこを一生懸命やった分、その裏側の状況が結果的に見えてくるという方法論が、うまくいっていたんだと思いますよ。キャラクターの向こう側に、別のドラマが透けて見えてくるという。最終回は、そのフィルム全てが、いい形になっていますね。
岡田:嬉しいです。フィルムになった最終回をはじめて観たとき、この作品に関われて本当に良かったと思いました。でもそれは、12話の時点で思っていたことでもありました。私が脚本作りに参加した時点で、スケジュールはかなりヤバかったんです。それなのに「好き勝手やってみろ」って言われて……みんな、正常な感覚がなくなってた(笑)。好きにやれるのはありがたいことではあるんですが、その分、ちゃんと考える時間がほしい。なのに、1本が書き終わらない前に次の1本に手をつけなければならなかったりと、どんどんスケジュールが押してきて。焦りまくっていました。そんなとき、私が最初に担当した12話のフィルムが出来てきたんです。2クールの長さの作品だと、1話のフィルムがあがるころにはシナリオ作業は最終話まであがっていることがほとんどなのに。「もうできちゃったの?」と驚いて観てみたら、その出来がメチャクチャ素晴らしくて……! 絵もすごいし、コンテもすごいし、演出もすごい。ほんと、アホみたいにすごいしか言えなくて。「手品かこれ?!」「何であのスケジュールで、このクオリティー!??」と思っていたら、監督が「岡田さんが脚本に入った最初の話だからね、みんな気合い入れたよ」って言ってくれたんです……。この状況でも諦めず、最後までみんながホントに死ぬ気でがんばっているというのが、フィルムから痛いほど伝わってきて。しかも新参者の私を、こんな風に迎えてくれるんだって……それで、さらに燃えました(笑)。