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「シムーン」スタッフが今だから語れる舞台裏を明かす「蔵出シムーン」に、ノベライズ版の著者・岡崎純子氏が登場。小説「シムーン」執筆の隠された苦労話や裏話を語ります。
この「シムーン」に関わり始めたきっかけは?
宣伝担当の方から依頼されました。彼には前にもノベライズのお仕事を紹介していただいたことがあったんです。
作品資料などを読まれた時、どう思われましたか?
その紹介してくださった方が、以前、別件で打ち合わせをした時に、異常にヤオイネタの喰い付きがいい人だったんですよ(笑)。なので、その人から、嬉しそうに「女の子がいっぱいで百合っぽい感じなんですケド~」とお話しされたので、もっと百合っぽい感じなのかと思っていたんです。でも、資料を読ませていただいたら、文学的な香りのする作品という印象を受けました。登場する女の子たちが、絵で見たらかなり肉感的ではありながらも、内面に秘めた色々なものなども伝わってきて、“あ、これは、ドラマとして面白そうだな”と。
打合わせの時、監督からどんな指示がありましたか?
最初に言われたのが、2巻のあとがきにも書いたんですけれども、「アニメとお話が違うとお客さんが混乱するので、同じ話でいきましょう」っていうこと。それがまず第一でした。
とはいえ、全く同じストーリーは小説の分量的にも厳しいし、戦闘シーンとかも再現することは難しい。アクションの魅力は実際にアニメで観てもらった方がいいので、「女の子の心の方を重点的にやりたいんですけど」という話をさせていただいたら、「はい、そういう風にやって下さい」と。「アニメはおじさんたちが寄ってたかって、“女の子っていうのはこんな感じかな”とか“こうであってくれたらいいな”みたいな部分で(前半は)脚本を書いていたので、女の人から観たら“実は、こういう風に見える時の女の子の本音は実際はこうなんだよ”という、本当のところを書いてもらえるといいな。見た目の雰囲気と心の底で考えていることとのギャップみたいなものを小説で表現してみてください」……というようなことを、言われました。
小説としてまとめるにあたって、苦労された点は?
大変だったのは、“1人の主人公がいて、それを軸にいろんな人が関わって動いていく”というスタイルのお話ではなくて、“主人公も、何か大きな世の中の流れに巻き込まれて行く中の1人にすぎない”という点。それでも一応、アーエルが主人公のような書き方にはなっているんですが、実際、女の子たちはみんな均等の立ち位置で、群像劇としか言いようがないんですよね。
それに、主人公達が打ち負かすべき敵という存在――戦争の相手のことじゃなくて、いわゆるラスボスとか体制などの形でわかりやすく描かれた、これを片付ければハッピーエンドになるものというのが物語の展開で明確にあるわけでもなく、何だかわからない時代の流れのようなものに翻弄されていきながら成長していくというか、世の中の苦みを知っていくという……。そういう印象を受けたので、いわゆるアニメらしいシーンというものは、小説では全部捨てていこうと。分量的に厳しいこともあって、お話によっては丸ごとカットさせていただいたりもして、女の子の気持ちの流れをきちんと追っていかれる話を繋げて、再構成したのが1巻で。
小説の構成で、第8話までを1巻にするというアイデアは、監督からですか?
私が聞いていたのは、とりあえず2巻は出しましょうと。「2巻で終わった時に、尻切れトンボにならないようにしたいね」という話をしていたんですよ。その時、監督がおっしゃっていたのは、「最後の展開はアクション主体になるから、小説にする時には多分、分量はそんなにいらないと思うよ」と。たいていアニメのシナリオって、後半の方がテンポよく進むじゃないですか。だから真っ2つに割るんじゃなくて、1巻の方を少ない話数でまとめましょうと。
あと、アニメの方では、世界観などの設定を1話であまり説明せず、だんだんとわかっていく形になっているのですが、小説ではきついですよね。アニメだと絵を見ながらいろいろ想像できるんですけど、小説は最初に情報をある程度読者に与えておかないといけないんです。それを最初にきちんとお伝えするということ。アニメの最初のほうを見逃した人たちにもわかりやすいようにしようと。
それと、続きが気になる終わり方――ひと通り今やってきたことの決着がつき、次に新しい展開になるというところで1巻を切るとすると、8話と9話の間がひとつの区切りになるので、「そこにしましょう」と監督がおっしゃったんです。「確かにそうだなぁ」と私も思ったので、1巻はキャラクター紹介をメインに、マミーナとユンが揃うまでという構成しました。それで、小説ではマミーナがものすごい勢いで駄目になっていったんですけど(笑)。マミーナファンの人にはごめんなさいという感じになってしまいました……。その点は、西田(亜沙子)さんにも言われましたよ。打ち上げでお会いした時に、「小説はマミーナの転落っぷりの速さがすごかったですね」って(笑)。
ただ、1巻の打ち合わせのときに、すでに「マミーナは無駄死にというか、犬死にというか、そういう死に方をさせる予定」だと監督がおっしゃっていたので、マミーナは最初、ヤな奴って感じでガーンと出てきて、死ぬ直前には、きっとみんなと分かり合うとかして、いい雰囲気になってきたところで、「何でこんなことでこの娘が死ななきゃいけないの?」みたいな死に方をするんだろうと、勝手に想像していたんです。それで、申し訳ないんですが、マミーナの“ヤな奴”のところだけを1巻に入れさせてもらって、2巻では死ぬ前の盛り上がりで、ちゃんとマミーナの見せ場を作ろうと。そういう計算だったんですけど……ホント、ファンの人には、「もっとページ数があれば……ごめんなさい!」
しかしアニメ本編は、9話以降もアクション主体になることがなく……。
ええ。ドラマの密度はどんどん濃くなる一方で、正直、アニメを見ながらちょっと青ざめていました。はい。「監督! 言っていたことと、ゼンゼン違うじゃ~ん!」みたいな(苦笑)。
最後の最後まで目が離せない展開で、ファンの人もそうだったと思うんですけど、私はもう、別の意味でも、ホントに目が離せなかったです。「どこに落ち着くのー! これはー!!」という(笑)。小説では何に絞って展開すればいいのか、というポイントがひとつに絞れないんですよ。翻弄される少女たちというものを、すごく丁寧に描かれていたので……。
それは、戦争がある社会ということだけではなくて、男か女かという選択のことだとか、家族のことだとか、大変な状況の中で「自分という存在は、何?」みたいなところまで、1人1人がきちんと思い悩んで成長するということが、しっかり描かれていたので、どれひとつ欠かせたくないなと思ったんですよ。で、ホントだったら、あと1巻じゃなくて、2巻あれば、もうちょっとアニメの流れのまま更に膨らませて書けたと思うんですよね。ですけど、後編1巻と正式に決まったので詰め込むしかない、と。でも出版社さんサイドも可能な限りの最大限のページを確保していただいたので、「最低限、ここまでは……」、と思っていたところまでは、何とか入れられたと思います。書き終えた今、振り返ってみても、「最初から、全2巻と分かっていて後半の展開もわかっていたら、もうちょっと後ろで小説の構成を区切ったか?」と訊かれると、やっぱり区切るところは今と同じになるんですよ。なので、やっぱり監督はわかっていらしたなと。後半で気持ちを追うときに、エピソードとして削れるところは、「これはこういうことがあったんだよ」という事実だけを書いて物語を進行させることができたのも、1巻で状況とか設定とかの説明が全部できていたからなんですよね。世界の謎解きを小説の中でやらなくてもよかったというのもありましたから。
断腸の思いで削った話はありますか?
女の子同士のふれあい。エッチな描写がもうちょっと欲しかったかな!(笑) ホントにもう、ドラマだけを何とか入れましたという感じでしたから。
私の小説の書き方としては、そういう(お色気方面の)シーンは割とアッサリ目に。何でもないシーンを、単語を選んで選んで選び抜いてエロくすることによって、いざ、そういうシーンがきたときに、たまらなくなるようにしたかったんですよ。1巻の時は、言葉を選んで磨きをかけるという、時間的な余裕もボリューム的な余裕もあったんですけど、2巻はストーリーを進めて心情を追うだけでいっぱいで。そこに更に、何でもないシーンなのにエロく感じさせるなんていう言葉遊びをする余裕はなかったんですよ。ホントはこう、何でもないシーンなのにいろいろ連想させたりとか、この間に2人の気持ちは……みたいな。そういう、もどかしかったりとか、ちょっと押したり引いたりっていう微妙な空気感を、もう少し入れたかったなぁ、と。
あと、女の子の日常みたいな部分など、小ネタでもっと書きたかったことはいっぱいあるんですよ。それはもう! でも、ホントに分量的な限界があったので……。