simoun
辻谷耕史(音響監督)  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  [ 第4回 ]
オーディオコメンタリー番外編  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  [ 第4回 ]
演出&制作編  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  [ 第4回 ]
野崎圭一(音楽プロデューサー)  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  
岡崎純子(脚本家・小説家)  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  [ 第4回 ]
監督&ライター編  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  [ 第4回 ]

 

蔵出シムーン・シヴュラ 野崎圭一(音楽プロデューサー/ビクター・エンタテインメント)第1回「シムーン」スタッフが今だから語れる舞台裏を明かす「蔵出シムーン」に、音楽プロデューサーの野崎圭一氏が登場。話題になったオープニングPVなど、「シムーン」音楽製作面の秘話を語ります。

「シムーン」に関わり始めたのは、いつからですか?

年末(05年末)だったかなぁ……。何故か新宿のヒルトンホテルに野口(和紀:スタジオディーン プロデューサー)さんと、小林(潤香:バンダイビジュアル プロデューサー)さんに呼び出され、茶を飲んだときかな……。バブリーな匂いがするでしょ(笑)。僕と梶浦由記がそこで別の作品の仕事をしていたから、こちらでその場所を指定いたんですけどね。野口さんとは「逮捕しちゃうぞ」で一緒だったし、小林さんとは「.hack」。2人のプロデューサーとのつきあいは長かったので、「音楽をお願いしたい」という話を受けました。企画書を読んでみると、女性キャラクターがいっぱい出てくる。たまたまその前シーズンに、男ばっかりの作品をやっていたので(笑)。それは「○ランス☆ォーマー」なんですけど、現場が男ばっかりなんですよ。その反動もあって、「これは、素晴らしい企画だ!」と(笑)。

4月始まりの作品として、音楽を依頼されるタイミングとしては普通ですか?

もしかしたら年末じゃなくて、もうちょっと早かったかもしれない……。でも、音楽をちゃんと準備できることから考えれば、通常と変わらないタイミングですよ。

野崎さんのスタイルとしては、音楽の方向性を含め、最初からプランを決めていくんですか?

そうですね。「シムーン」は西村純二さんが監督ですが、西村監督とは「逮捕しちゃうぞ」の劇場版でご一緒しました。それ以来、「また一緒やりたいな」という思いがありました。心残りというわけじゃないんですが、映画なので曲数がどうしてもTVシリーズに比べて少なくなるので、もうちょっと突っ込んで曲を作りたいなということと、前回は、野崎らしさというテイストを100%入れたわけじゃないので、逆に今回はこちらから提案していかれればと思いました。

作業は具体的に、どんなところから始められたんですか?

主題歌アーティストを決めるための打ち合わせをしたのが最初ですね。

主題歌アーティストに関しては、野崎さんとしては何かプランはありましたか?

ええ、やっぱり女性がメインの物語で、女性らしさ、女神的なイメージから、それに近いテイストを感じたので、See-Sawという女性同士のグループから、主題歌として石川智晶をピン(単独)として起用するのはアリかなと考えました。それで西村監督にSee-Sawの曲を聴いてもらいました。石川さんを選んだ理由は、最初にこの作品の企画書を読んだ時、ストイックな作品に感じたので、オープニングとして言葉でキッチリとメッセージが届けられるアーチストが必要だな、と。作詞家が書いたものを届けるのではなくて、作品の看板としてオープニングで曲がかかるものだから、その歌っている人は女性であり、自負もキャリアもある個人が、きちんとした言葉を持って歌えるのがいいかなと思いました。だから、あえてSee-Sawではなく、石川智晶でやりたかったんです。

「シムーン」が「ストイック」という評価はすごく的を射ていると思うんですけれども、どの辺でそう感じられたんですか?

それは多分、シナリオですね。シナリオを読ませてもらって、「濃い!」って。エピソードを全て読んだわけじゃないんですけれども、落とし込み方がそう感じさせたんだろうなと。企画書が充実していたので、何を描きたいかというところまで明確にキッチリ書かれていましたし。戦闘シーンが具体的にどこまで描かれるのかはわからなかったんですけれど、石川智晶は「ガンダムSEED」を含めて戦闘的なテーマも歌っていますし、群像劇をきちんと目線を持って歌えるのでピッタリかなというのもありました。

それでは、エンディングのsavage geniusの方は?

お話が終わった後のエンディングにかかる曲は、世界観をグッと広げられるようなものにしたいなと考えました。そして、男性じゃなくやっぱり女性だろうと。今度は石川さんよりもキャリア的には若手で、いわゆる“お姉さんと妹”という立ち位置の妹分に当たる女の子でいかれればという部分でチョイスし、プレゼンしました。savage geniusがアーエルであり、石川さんがネヴィリルであるという立ち位置も作っていて、という感じでしょうかね。savage geniusに関しても石川さんに関しても、西村監督はすんなりOKしてくれましたね。

主題歌を作り込んでいく上で注意したところは?

戦闘物であり群像劇であっても、いわゆる“少年物”ではないので、その中に美しいものを作りたいとな思ったんです。だから、石川さんの「美しければそれでいい」というのは、石川さんと話をしている中で、そのタイトルがスパンと出てきたので、それを膨らませていけばよかったですね。たとえば「妖艶」といった感じで、2ワードくらいではめた綺麗なタイトルの方が、歌のタイトルとしては潔いんだけど、そうではなくて、心の中に、“美しければそれでいい”という哲学があるというのが、非常に彼女の持ち味としても正しかった。楽曲としては、アップなんだけれど、いわゆる“ロック感”が強過ぎない物、先に歌が引っぱっていって、音楽のアレンジが後からついていくものにしたかったので、こうしたサウンドになりました。その意味でも石川さんのインスピレーションが、正しかったと思いますね。「美しければそれでいい」というタイトルを聞いた時に、自分はこのタイトルでいいのかな?  と思ったんですけど、石川さんに「これでいいんです。そういうものじゃないですか?」と言われて、「ああ、確かにそうだ」と。

レコーディングは、すごく順調でしたね。曲も仕上がるのは早かったと思います。それで、オープニングテーマができたので、今度は、対をなすエンディングテーマの方ですが、savage geniusはデモテープをいくつか作り、その中から選びました。

その選択は、野崎さんが?

監督には、オープニングとエンディングでそれぞれ2パターン、聴いてもらいましたね。僕がたまたま別のレコーディングでアメリカに行くタイミングでした。お正月ですよ。確か、1月の4日だったか5日だったか……成田空港から西村さんに電話をかけて、決めてもらいました。

エンディングの歌詞や曲の方で印象的だったことは?

妹でありながら強気でいくけど、実は弱かったりとかする精神構造も含めた部分と、戦いの意味というものイメージを込めています。最終的には勝ち負けはあるでしょうが、攻めてくる方にも、守る方にも理由がある。「シムーン」はそれぞれが正しいと思って戦った物語だと思うし。だから、割とさわやかに入っていくんだけれど、でもサビになるとちょっと悲しい、という。こちらもレコーディングは順調でしたね。

それと、CDのアーティストジャケットが、どちらもバックが空(そら)になっているのは、「シムーン」の世界で空というアイテムは大事なものだと思ったからです。キャラクタージャケットが、オープニングはネヴィリル、エンディングはアーエルという絵柄なのも先ほど話した通りです。泉で別れているんですよ。2枚並べても違和感がないように、いろいろ工夫しています。文字とかもシンメトリーになってます。

オープニングに関しては、プロモーションビデオ(PV)も作られましたが……。

女の子同士がキスをするというメインモチーフをもった作品ならば、やはり、そういうプロモーションビデオを撮ってみたいなと考えていました。石川さんとビデオの相談をした時に「私は作品に向かって書いているので、PVの中で私自身が出なくても問題ないのでは」とのことでした。それで「僕に預けてもらっていいかな?」と。

PV単体でも、話題になる人を入れたいなと思ったので、秋葉原の○×電気のAV(アダルトビデオ)のコーナーに昼間っから行って、イメージに合う女優さんはいないかと、ずっと眺めていたんですが、よく分からなくなったのでお店の人に聞いたら、丁寧にいろいろなAVの女優さんのことを解説してくれました。参考資料という名目で会社の金でAVを買ってみたり。でも、さすがに中味は打ち合わせ前に観れませんでした(苦笑)。パッケージ開けてたら会社で打ち合わせしにくいじゃないですか、先に見たのかよって(笑)。

観ずに決めちゃったんですか?

蒼井そらさんは普通のグラビアもやっているし、TVにも出られているし、AV以外でも判断できましたからね。ある種のエロティックさというか、アダルト感は絶対必要だと思っていましたから、彼女を選んだんです。PVには石川さんと同じ事務所のErinaちゃんが協力してくれることになって、じゃあ2人でと。お姉さんと妹、みたいな感じで、お姉さんがそらさんで、妹がErinaちゃんですね。

あのPVの構成は野崎さんが?

はい。空を感じるものとして“雨”があって、その雨の中で最後にキスをするというのがやりたくて。3トンのタンクを借りてきて雨を降らせたんですけど、その時にホントに土砂降りの雨が降ってきて、タンクいらなかったじゃないか!  ということもありました(苦笑)。PVの雨は人工もあり、本物もありです。ただ、実際の雨は雨粒が小さくて写りづらいんですよ。でも、その混じった感じが良かったですね。PVを公開した後、会社(ビクター・エンタテインメント)にも、「PVは商品化しないんですか?」と、問い合わせをいっぱいいただいたんですが……しません!(笑)  そのかわり、ビクターのホームページでフルバージョンがご覧いただけます。

蒼井そらさんが参加してくれた理由というのが、ビジネス的な面より、自分のコンセプトを映像化するということにすごく賛同してくれたということだったんです。嬉しかったですね。蒼井さんは本物の女優で、「スタート!」と言ってからの表情のバシッとした決まり方とか、たいしたものだと感動しました。彼女の仕事は、結構大変だと思うんですよ。だけど、そういう役者魂みたいなものを直で見てわかったので、考え方が変わりましたね。自分をどう見せたらいいか良くわかっていました。こちらが遠慮して控えめなキャミソールとかも用意したんですけど、彼女から「いや、このシーンは胸の所が強調されてた方がいいでしょう」という意見も出てくるし。「すみませんでした、遠慮した私が馬鹿でした」と。もう、PVのポスターまで作っちゃいました(笑)。

映像のディレクターが優秀で、綺麗な作品に仕上げてくれました。1曲の歌の中で2人のすれ違いがあって、最後には理解しあうっていうところまでストーリーが描けています。その後、某アーティストのPVでそっくり真似されましたけど(苦笑)。足がクロスして、アンクレットがその脚に付いてる!  それはオレのアイデアだよ!

第2回に続く>
シムーン