simoun
辻谷耕史(音響監督)  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  [ 第4回 ]
オーディオコメンタリー番外編  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  [ 第4回 ]
演出&制作編  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  [ 第4回 ]
野崎圭一(音楽プロデューサー)  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  
岡崎純子(脚本家・小説家)  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  [ 第4回 ]
監督&ライター編  [ 第1回 ]  [ 第2回 ]  [ 第3回 ]  [ 第4回 ]

 

演出&制作編 蔵出シムーン・シヴュラ 第3回第3回から続く>

うえださんは、メインキャラの中で共感できたキャラはいましたか?

うえだ:いや、やっぱりみんな女の子だから。男にはわかんないよねー……。好きなキャラだったら、モリナスです。いわゆるプロ志向を持っている子が好きなんです。アーエルもそうなんだけど、アーエルはもっと感情に走るので。モリナスの行く末うんぬんとか、何があったかとかは別にして、ああいう立場とか態度はわりと好きですね。でも、気持ちはわからないよね。やっぱ、女の気持ちがわかる男になれないよねー。女の気持ちがわかる男ばっかりだったら、物語なんか成立しないんだよ。わかんないから物語になるわけで……。

:でも物語を作るのは、アニメだと半分以上、男ですよ?

うえだ:そりゃそうだよ。ユーザーの問題があるから。でも、最近は女性向けってのもあるからね。

男性向けでは女性キャラクターが多くて、女性向けでは男性キャラクターが多いというのは、わからないからこそ、やりたがるのかもしれませんね。

うえだ:それはそうかもしれないね。

松木さんは、誰ですか?

松木:ネヴィリル。ネヴィリルだけは、許せないですよね!

一同:許せない?!

松木:個人的にはネヴィリルは、ありえない女だな、と。

松田:メチャメチャいるじゃん?

:私も最初そう思った! わけわかんない女なんですよ!(笑)

松田:孫さんも松木も、お前ら全員ネヴィリルだよ?!

(一同・笑)

松田:パライエッタになりたいだけで――!

:いや、アーエルになりたい! なんか悩みもなしでこう、前に突っ走るのが――。

松田:困ったことに自分大好きで、心はみんなネヴィリルなんだよ!

:違う違う! そんな事ないですよー!

松田:いや、絶対そう! むきになって否定するところが怪しい!

(一同・笑)

:怪しいって言われても、それは~!

松田:松木も絶対、ネヴィリルだから!

:……髪型が?

(一同・爆笑)

松木:許せないのはネヴィリルですけど、好きなのはダントツ、ドミヌーラでした。

一同:あー!

松木:オープニング作っている時も、あのカットを一番大事にしていた!(笑)

(一同・笑)

松木:ドミヌーラはすごく好きでしたね。

うえだ:歌っている場合じゃなかったよね!

松木:いや、でも、リモネとワンセットのドミヌーラが好きだったんで……。

一同:あー!!

(一同・頷く)

松木:「ちょっと来て」ってドミヌーラを呼んで、キスをして「どう、ドキドキした?」ってシーンがありましたよね。そんな2人のやり取りが好きなんですよ。あの世界にいたら、ドミヌーラとだったら友達になれるなと思います。ネヴィリルは、論外!

うえだ:論外なんだ……。

松田:いじめちゃうでしょ?

松木:うん。私、多分いじめちゃうと思う……。

松田:松木はコール・ルボラでシヴュラ・マツキって感じで、アルティあたりとダチで、「ねぇ、テンペストってどうよ? ムカつかない?」とか言っているタイプだよね!

(一同・笑)

松田:カイムじゃないの。そこらあたりが微妙なんだよ! カイムは外、嫌いだから。アルティは意外に世渡り上手で、テンペストにいてもテンペストの中枢に関わってないから。いたりいなかったりするくらいの雰囲気があって、コール・ルボラとかとも交流があっちゃったりなんかしちゃったりして!  その時に、シヴュラ・マツキとダチになって、それで2人して延々ネヴィリルの悪口を話してそうな感じ!

うえだ:長いなー、話!(笑)

松木:そんなやな奴じゃないですよー!

:私も最初、ネヴィリルって「何、この女!」とか思ったけど、意外とかわいいよ?

松木:かわいくない! 最後まで嫌!!

うえだ:こりゃ、面白い(笑)。

松田:うん。

:なんでよー?

松木:最後まで結局、アーエルにおんぶに抱っこで終わるんだ、みたいな。

:いや、だって、育った環境、考えてみなさいよー!

松田:松木はリアル・レジーナだからなぁ……。

松木:制作の進行の中では、結構リモネが人気がありましたね。

うえだ:へ~……。

松田:! 知んなかった。

松木:女の子にも人気がありましたよ。で、なおかつ最後の方でリモネが成長してからは、小っちゃいリモネとドミヌーラも良かったんだけど、大っきいリモネとドミヌーラもゼンゼンアリ!  みたいな。あの2人だけのショットは、ホントに良かったなぁ、と思います。あと、モリナスも人気がありましたね。アーエルとネヴィリルはもう、最後の方は勝手にやってちょうだい、でした(笑)。

松田:モリナスが好きだと言うのは、多分、男連中なんだよ。ていうかさ「ない物ねだりの子守歌」なんだよ。モデルが倖田來未だから! あのね、結局さ、モリナスで狙っている空気っていうのは、藤原紀香なのよ。オレ個人の話だけど。紀香ちゃんとか倖田來未は、世間的にはイケイケで、すっげーセクシーなのよ。

:でも、ワポーリフとくっついちゃったんですよ?

松田:萌えるじゃん! モリナスっていうのは、どうせSMAPの連中としか結婚しないタイプなわけだよ!

(一同・苦笑)

松木:あと、女性陣には、グラギエフとアヌビトゥフの2人の関係っていうのは、毎回毎回どうなるんだろうと注目を集めていました。西村さんに「やっぱりボーイズラブになりましたね」って言ったら、「オレはボーイズラブを作っているつもりはない」って言っているんですけど……。

松田:オレもない!

松木:でも、女性から見ると、見えてしまう時もありますよね。

うえだ:そう、見えるしかない?

松木:そう。

松田:西田さんの弁を借りて言うと、根本的な部分で、百合だとかヤオイだとかいうのは、「シムーン」には一切当てはまらないわけだよ。何故か? 性を選ぶ、選ばないっていうところがあるわけで、生まれた時から女性しかいないから、百合ってモノが存在しないわけだよ。百合ってものは、男女ってモノが存在して初めてある。だから、「シムーン」の世界では、百合ってモノが存在しないわけ!  オレ達が便宜的に“百合”って言っているけど、本来、百合ではないのよ。オレ達がこだわって作っている世界観ていうのは、女しかいない社会での青春群雄劇。言ってみれば新撰組や白虎隊を描いているのが「シムーン」なのよ。新撰組や白虎隊はボーイズラブになりうるけど、「シムーン」はなりえないわけ!

うえだ:それは、おためごかしだなぁ~。

松田:でも、グラギエフとアヌビトゥフの2人は、ボーイズラブでもホモでもないのよ!

:私、設定画に書かれている裏設定とか読んで作打ちに臨んだんですけど、その時、作画さんに「これ、匂わせた方がいいんですか?」って言われて、どうしようと思って……!  その時は、「無視しちゃってください」とは言ったんですけど……。

松田:……大体ね! 西村さんも岡田さんもどうかしていると思うのは、「グラギエフ、君の部屋で」って、「君の部屋」ってなんだよ~~!! 執務室とかいろいろあるだろうが~~!!  と。何故、「君の部屋」なんだよ~~!

松木:そこが乙女心をくすぐるんじゃないんですか……?

松田:もうね! 許せないわけ、オレは!

:なんで~!? グッと来るじゃないですか!

うえだ:グッとくるんだ……!

松田:仕事としては、グッと来るわけよ! そこで何故、お前ら何でその台詞が出るんだよ! って。

松木:でも、あのキスシーンは波紋を呼んだし、波紋を呼ぶってことはあの2人の注目度って大っきかったんだな、と思いました。

松田:ああ……もう、そうだね……!

松木:女性陣も、結構あの2人を見ていたんだな、って。あのさりげない感じも良かったし、前の話数の寡黙な空気も良かったから……。

松田:全部、加藤(敏幸)さんなんだよな……! ウィンクもそうだし、キスもそうだし。全部、加藤さんが仕込んでいるんだよね。

ほかには何かありましたか?

うえだ:「シムーン」の背景が持つ雰囲気は独特ですね。そこもすごく貢献していると思いますよ。実は、「シムーン」の空って、演出するのがすごく難しいんですよね。その辺はいろいろ手を尽くしてやっていたけど。あとはやっぱり、あのハーモニーの良さ。これだけのものは他に今、ないよね!

:デジタルではなくて、紙に描いているんですよね。

松田:だって、セルのトレス線の上に、絵の具がのっているんだよ!

:「シムーン」はハーモニーの筆のタッチがすごくイイ! ちょっと感動しちゃって!

うえだ:ハーモニーは紙に描かれた現物より、フィルムになるともっとすごく良く見える。本来はある筆の跡とか、細かい濃淡とかが、フィルムになった段階である程度落ちていく。そこが、逆に良く見えることになる。今回も、そういう計算で描いている背景だったからね。今はデジタルだから、フィルムの頃とは微妙に違うけれど、最近は、フィルムに近づけるための補正もうまく入るようになったしね。

松田:やっぱりあの背景は、「シムーン」の世界に合っているよね。アレはイイ背景だったと思いますよ。

それでは最後に、皆さんにとっての「シムーン」とは何だったのか教えてください。

:私はこの作品をやる運命なんだ、と思いましたね。いきなりプロデューサーが来て、「通訳して!」って言われるし、次やる予定の作品をやらずに、「シムーン」をやっていることになっていたんですよね。

松田:あー、それはオレが引き抜いた形になっちゃったんだよね。オレにとって、飯が食えるってことと、経験するってことは同義語で、飯が食えて経験ができるってことを孫さんにいっぱいさせたかったわけ。それで、次の仕事もウチでお願いしますって話をしたのよ。ゴメンね。

うえだ:松田は自分で使いたかったわけだよね。

松田:そう!

:でも、すごく楽しかったです。また、高校生の気持ちになって彼女たちを描けたのが、すごく楽しかったんですよ。最終話の前の話数で壁に寄せ書きをするところなんかは、何となく卒業だなっていう気持ちにさせられたので。それがすごく良かったですね。

うえだ:そういう意味で、「シムーン」の中で孫として泣けるポイントみたいなのはあった? 卒業って、涙とか別れのイメージがあるわけじゃん?

:あー………。そうですね、みんな自分の道を何となく決めていて、それで覚悟を決めて泉に行く! 泉に行く前の気持ちの表現がすごく良かった。

うえだ:前から、女の子ばっかりの作品、やりたいって言っていたものな。

:はい。

うえだ:そういう意味では、どうだった?

:「シムーン」は、もうちょっとやりたかったですね。ネヴィリルとアーエルや異空間に住んでいる人たちのところが、ちょっと異質でした。あの2人は、女子高出身の私から見ても、なかなかいないキャラですよね。少女マンガの主人公としては、ゼンゼン、アリなんですけど。他のキャラがすごく身近に感じられた分、そのギャップが……。2人はどちらかというと、憧れの存在ですかね。卒業して、現実に向かって大人になるっていうよりは、夢の中に住んでいるような存在だと思います。何にしろ、大変、勉強になりました!

それではうえださん、お願いします。

うえだ:オレはほら、オジサンだからさ(笑)。西村さんにある意味近い感じだと思うんだよね。今までアニメーション作品として、少女モノはいっぱいやっているんだけど、この作品は違いますよね。リアルな女の子たちだったというか……。男ってすぐに、女に夢を求めたいところがあるから。ある意味「自分の学生時代に、こういう女がいたらいいな」という願望がやっぱりあるでしょ。ホントにつき合ったらどうなるかは別にして。そういうファンタジーとは違うリアリティが「シムーン」にはありました。そこに男である自分が、どう感情移入して演出していくかが、すごく難しいところでした。やっぱりオッサンだからねー(笑)。もっと特異な展開にしてSF的に掘り下げて行こうと思えば、いろいろ掘り下げていかれる要素もあったと思います。でも、そこにはあえていかないで、キャラクターに収束したという潔さ。そこが西村監督のうまさなんだろうなと思いましたね。

最後に松木さんにとっての「シムーン」とは?

松木:いろんな意味で、重たい作品でした。作品の内容もそうですし、作業の内容も全部、いろんな意味を含めて重たい作品なんです。でも、多くのスタッフの皆さんたちと一緒にやった!  と、すごく感じられるような作品だったと思います。

松田:今後も、それをやってくれよ!

松木:ハイ!

ありがとうございました。

今年中の「蔵出シムーン」連載は今回でおしまいとなります。
次回からは音楽プロデューサーの野崎圭一さんのインタビューをお送りします!
シムーン