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蔵出シムーン・シヴュラ 野崎圭一(音楽プロデューサー/ビクター・エンタテインメント)第2回第1回から続く>

本編のBGMに関してなんですが、まず、佐橋俊彦さんを起用された理由を教えて下さい。

佐橋さんとは「ガンダムSEED」をずっと一緒にやっていたし、その前からいろんな作品をやっていました。彼はヘビーな戦いの音楽もうまいし、アカデミックなものもできる表現の幅が広い人なので、やっぱり佐橋さんが一番いいなと。西村監督に、彼のこれまでやった作品のサントラを聴いてもらったら、「この方で!」とスパッと決まりましたね。

ここから辻谷さん(音響監督)にも加わってもらい、西村監督さん、佐橋さんとBGMの打ち合わせに入りました。そこで西村さんと辻谷さんが、どんなBGMのイメージを持っているかをうかがいました。僕は、モチーフとしてボレロがいいかなと思っていたんですよ。もし戦闘が描かれるとしたら、いわゆる旋律的な戦闘シーンかなと。淡々とした曲をかけていくっていうアイデアは、元々持っていて。そんな話をしている中で、辻谷さんがポロッと「タンゴって良くないですか?」と。それを聞いた時に僕も佐橋さんも「あー!」と。「タンゴ!  面白いかも……」。打ち合わせ現場で初めてそういう話を聞いて、曇っていた部分が全部晴れ、「じゃあ、タンゴで行きましょう。」という形になりました。そこから具体的な各メニューへの落とし込みは、早かったですね。

これは僕の個人的なイメージなんですけど、ロックとかJポップとかじゃなくて、クラシックをかけると、やっぱり女性はきれいに見えるかなというのがあり、クラシック感が強いものをやってみたかったんですよ。「シムーン」に関しては、基本的にギターは使っていませんね。一部、後半で作ったタンゴには使っていますけど、エレクトリックギターをメインでという感じにはしていません。 これはわざとです。あと、男女の混声コーラスをワーッと入れると、なにか宗教的で気持ちいい場面が作れたりするんですけど、この作品はそういうテイストではないので、それも止めました。とにかく石川さんからもらったキーワードじゃないけれど、“美しいもの”、“美しければそれでいいもの” を常にこの作品の音楽に求めていきました。

ただ、そこにはひとつ問題があって、それをまっとうにやろうとすると莫大なお金がかかるんです(苦笑)。申し訳なかったのですが、西村さんと辻谷さんに「曲数はこれだけにして下さい。その代わり、本当にこれだ!  というものに予算をキッチリかけて、キレイに聴かせるものを作りましょう」と、こちらから最初に宣言させていただきました。

この作品に関しては、音の豪華さを狙うべきだなと。だって1話なんて、サントラ1にある「女性国家」の1楽章から4楽章を、前半にぶっ通しでかけていますからね。そんなことを含めて、西村さんがもともとおっしゃっていた「やるなら徹底的にいきましょう」を実践しました。

音楽編成的にはかなり豪華です。作品の応じた予算の掛けかたというのは本来あるんですけれど、それを無視してやっちゃったところはありますね。

BGMの収録は2回やりました。2回目は普通、方向性とかを変えたりするんですけれど、今回はあえて変えませんでした。1本、筋を通したものを作ろうということで、音楽編成とかも全く変えなかったです。普通はサウンド感をボリュームアップして、後半はこれだけドラマも盛り上がるから、音楽もこれだけ成長させちゃおう、とかするんですけど、そうではなくて、最初から豪華に作っちゃったので、もうそのままなんです。逆に、後半の発注の中で、辻谷さんがタンゴを演奏しているスポットなどに行かれて、そこで見つけられたミュージシャンの方を使いたいというアイデアがあり、僕が直接連絡させてもらって、その3人のグループの方にジャズ的なノリで何度か演奏してもらい、収録しました。これは2枚目のサントラの中に入ってますね。

サウンドトラックのCDジャケットについては?

こちらはシンメトリーです。そのもともとのアイデアは、カタツムリくん(ヘリカル・モートリス)からですね。常に点対称というか、中心があってそこでグルグル回るようなイメージ。

だからサントラCD1のジャケットは、アーエルとネヴィリルの上下逆の2人が、ヘリカル・モートリスの上に乗っかっている。サントラCD2ではクローズアップで、2人がキスをしているという。テーマはシンメトリーです。ただ、僕からは構図のオーダーまでで、肌身のニュアンスとかは、西田さんのアイデアそのままいただきました(笑)。僕は、こんな感じかな~、という元のコンセプトをディーンの松田プロデューサーに相談したまでで、そこから松田さんのアイデアもあって、実際の上がりになりましたから。僕の発注の段階では、そこまで具体的に指定してはいませんでしたよ。ただ、2枚目をやる時にはやっぱり「1枚目よりHな方がいいな」とは言いましたけどね……(笑)。でも、西田さんは絵のプロなので、オレがどうこう言うより「お任せします!」と。想像以上でしたね……。実はサントラCD2のイラストですが、もうちょっと描かれていたんですけど、今のジャケットくらいの寄りのトリミングで止めておこうかなと(笑)。より感覚的に見せるんだったら、もうちょっと引いたトリミングでも良かったんですけど。それは、PVの蒼井そらさんに教えてもらった影響でしょうか、描かれた2人の役者感が出るのは、今のトリミングじゃないかなと。

あと、ブックレットにもこだわりましたよ。これまでのサントラのブックレットは、あまり読ませるような情報量を入れなかったのですが、今回は読みどころがいっぱいあるブックレットを、久々にちゃんとやってみようと。

理解してほしい……やっぱり「シムーン」は難しい作品だと思うんですよ。女性国家というか、性の設定などシチュエーション的にも特殊だし、出演声優は全部女性という辻谷さんのこだわりもあったし。だとしたら、それをいかにちゃんと伝えるか。手を抜いたら駄目だと思うので、それはもう、まっとうに上質なサントラCDというものを考えて作りました。「あ、サウンドトラックって、これだけいいものだったよね」っていうものが、皆さんに伝わったらうれしいですね。

野崎さんとして、お気に入りの曲はどれですか?

やっぱりタンゴですよね。タンゴのモチーフを佐橋さんは絶妙な感じで出してきましたね。特に戦闘シーンに使われている曲は、最初の方では「ガンダ☆」的な曲調が、途中からタンゴになってしまう。あれは、僕とか佐橋さんの中ではもう「しめしめ」でした。「あれ?  聞き終わったら、タンゴだった」。曲としても非常に良くできているし、違う2曲を並べて、それを編集で繋げたわけじゃなくて、1曲として書かれているところがいいですね。

そういう風に1曲の中で紆余曲折を作ってしまったから、辻谷さんは編集しにくかったと思いますが、音楽的な聞き応えはあると思いますよ。普通の劇判みたいに、1分程度のものがいっぱい並んでいるわけじゃないので。ある種、音楽のアルバムとして聴いても、普通に違和感なく楽しめるでしょうし。「あ、またタンゴ!」という感じもあるとは思いますが。

第3回に続く>
シムーン