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ノベライズ編 蔵出シムーン・シヴュラ 岡崎純子(脚本家・小説家/メガミ文庫「シムーン」1巻・2巻執筆)第4回第3回から続く>

ドミヌーラの化粧の描写で、小説はアニメと比べてリアルさが強かったんですが、その辺りは何か意識されたんですか?

そこにこだわったことは、結果的にすごく上手くいったなと思います。アニメの『シムーン』のキャラクター作りのうまさゆえですね。ドミヌーラは、内面の脆いところが少女のまま、いろいろな経験だけを積んで大人になってしまったので、あの化粧は「武装しているみたいに」とか小説で書いちゃったんですけど、ホントにそうだったんですよね。リモネにも支えられるくらいに中身が脆くて、弱い部分がそのまんま大人になってしまったが故に、溶けるぐらいに弱いんだなぁ……と。あれは上手く使わせていただきましたし、実際アニメでも、化粧とかしてない土気色のドミヌーラが一瞬出てきたシーンがありました。あれも、内面の強さが美しさとして現れていて説得力あるなぁ、と。

その辺、小説でも結構気合いを入れて書かせていただきました。“マスカラ”とか書いてもいいのかな? とか思いながら、一生懸命、できるだけ日本語に直して。ここの世界と化粧品が違ったらいけないから(苦笑)。

心情的な部分を描かれた、「こういう気持ちなんだ!」といったような部分がかなりあって、女性の視点ゆえの説得力を感じたのですが。

どこまで書こうかというのは迷いましたね。書きこみすぎてしまうと、「ここではこういう気持ちなんだ」ということになってしまいますから。ホントはアニメを見ながら、キャラクターの気持ちをいろいろ考えてほしいですよね。だから、小説で心情をどこまで書いていいのかと迷いながらも、「少なくともここは、この気持ちだけは絶対あったんだ」という部分だけは、ハッキリしとかないといけないと。

男の人は状況で動いていくんですけど、女の人は気持ちの連続で動いているので、男女でシナリオの書き方とかも違うんですよ。だから、アニメのシナリオに岡田(磨里)さんが参加されてからは、自分としては今までとはすごく違った印象を受けました。おかげさまで、男の人から見たらどうだかわからないけど、気持ちの連続とかニュアンスの部分で、ここはこういう流れということを、自分なりの解釈で、心情的な面を書かせていただけました。

あとは化粧と匂い、ですよね。そういうできるだけ五感に訴えるものを入れたいなと。温かさとか触感とか。

1巻のときには、この作品の見どころはどこだろう? 商品として他との差別化を考えると、一見百合っぽいというのが、かなり大きいウェイトを持っているのかなと考えました。あと、アニメではたくさんキャラクターが出てきたりするときに、どこでキャラクターを差別させるかというのが重要なんです。そうすると、やっぱり売りになる部分とうまく絡ませていきたい。たとえば、アクションシーンとか、いっぱいいい男が出てくるんだったら、どうカッコいいのか。それは台詞であったり、動きであったり、いろんな要素がありますよね。

女の子の場合は、アニメになるとみんな可愛いんですよ。その可愛いの違いをどこで描くかというと、ちょっとした衝突とかから出てくるんですよね。

そこで、この作品では、キスの仕方の違いで出したいなと。1巻の時はもう、執拗に描写しました。性格の違いが、キスの仕方でわかるようにしたいと思って。

男の子向けの作品だと、戦いのやり方で性格とか出ると思うんですよ。特にアニメなんかは。だけど今回は、戦闘シーンじゃなくて、その前の、キスシーンで全部決めようと思って、そこだけもうミッチリ書いて。そこを2ページぐらいかけて書いて、戦闘シーンは3行ぐらいで終了、みたいな(笑)。「エロを書け!」と言われたから書いたのではなく、意味もあったと!(笑)。

ファンの方のために、1巻2巻の読みどころを教えてもらえますか?

1巻の方は、アニメのお話し通りにするということで、可能な限りシナリオに忠実にしました。とはいえ、シナリオから絵コンテになるときにセリフが変わることもありますから、実際の台詞はアニメ本編を見て修正し、なるべくみんなの知っているアニメの『シムーン』と離れない形にしています。だけど、小説として繋げてみたときにわかりにくくなるところはシーンを足したり、逆にホントはすごく意味があるんだけど、それを説明すると小説として長くなるから全部カットしたシーンもあります。簡単に描写して、微妙なニュアンスが変わってしまうのを避けたかったので。そんな風に、アニメを見て知っている人に、違和感をできるだけ感じさせない形で、現在の分量にまとめたというのが1巻の作り方です。

逆に2巻の方は、みんなの知っているシーンはなるべく書かないで、「実はこのシーンとこのシーンの間には、こんなことがありました」とか、「裏ではこういうことがあったから、あの時こう言ったんだよ」みたいな。アニメを見て、小説を読んで、両方を知ったときにいっぱい楽しくなるように。「あ、こんなこともあったんだ、」「こんなことも思っていたんだ」と、またDVDを買って観ていただけると、新たな発見があるとか。そういう風に、広い多角的な視点で見てもらえるように作ったんです。そういう形で、1巻と2巻で作りがゼンゼン違うので、もしかすると、小説だけ読むとちょっと混乱してしまうかもしれないんですが。それはもう、「小説の2巻は、アニメ本編と描写を変えていただいて、世界を広げて深めていけるか、お任せしますのでやってみてください!」と監督が言ってくださったので、できる限り頑張ってみました。小説に関して、特に2巻に関しては全面的に任せていただけたので、意気に感じました。

見どころですか? ……1巻はキスシーンの描写です(笑)。キスとか触れ合い描写は、小説オリジナルなので。

2巻の場合は、ほとんど全てのシーンが小説オリジナルで、あえてアニメのものすごい見せ場のシーンを、ものすごいテンポで進めていて、「後はテレビで観てね」という感じでわざとすっとばしちゃっているところもあります。

激動の中で女の子たちがどういう風に悩んだり、傷ついたり、苦しんだりして、そこからみんながどう支え合っていったのか。その支え合い方というのも、女の人が作った女の子同士だと、けっこうベタベタ支え合っちゃうんですけど。シムーンではすごくドライで、1人1人が、ちゃんと自分の足で立ち上がっていたんです。「友達がいるから立ち上がれた」というのは、ある1つの支えでしかなくて、基本的にみんな、自分の足でちゃんと立って歩いているんですよ。他の女の子キャラがいっぱいいるだけの作品では、そこまではいってないと思うんですよね。そういう部分を観てほしいなぁ、と。

これはホントに世界観の違いだと思うんですけど、女に産まれて男か女かを選んでいくというよりは、女を捨てたかどうか、みたいな。選ぶんじゃなくて、捨てるような、そういう気がしたんです。

「選択肢を狭める、自分で可能性を消していくということが、歳をとることなんだ」アーエルのおじいちゃんがいっていたことなんですけど、私も若い頃はそう思っていたんですが、その1つ選んだ先に、選ばなかったら見えなかった無限の可能性が、また延々と続く。選択肢は続いていくんですよね。女の子たちが、叩きのめされて。今まで無敵だったのが、負けるようになり、自分たちではどうしようもない、もっと大きな力に踏みにじられるようにして、無理やり大人にならされた。そのどうしようもなさの中から、それでもやっぱり、自分の進むべき道を見つけてるんですよね。そこのところは、世界がゼンゼン違うからこそ描けた、今の社会の私たちと同じところじゃないかな、と。ドラマ的には、そういう真面目なところは、実はすごく大事にして書いてきたので、悩んでたりとか、迷ってたりとか「他に道がない!」と思い詰めたりとかすることは、みんなあると思うんですけど、きっと何か、自分が動くことによって見えてくる物があると思うので。アーエルとかネヴィリルとか、仲間のみんなとか、周りの大人の人たちもわかっていて、あえて動かないけどフォローする、みたいな部分がありましたし。

これは別に理想として描いてるんじゃなくって、今の世界でもホント、自分の中だけで「駄目だ駄目だ!」と思い詰めるんじゃなくて、ちょっと周りの人に見たり話したりすると、実はこういう人たちがいる、っていうこともわかると思うんですよね。ほかにもいろんな選択肢もあるっていうことを、みんなにも感じて欲しいなぁ、とかって、そんな真面目なことも考えながら書きました。

でも、2巻に関しては、もうちょっとね、エロがんばれば良かった!(笑) もうちょっと色っぽいシーンとかも入れたかったんですけど、分量と時間が……。

それでは最後に、ファンの皆さんにメッセージを。

『シムーン』は、自分の精神状態によってとか、自分次第で見え方がいくらでも変わる作品だと思うので、1回目観た時と2回目観た時と違うし、何か1つ経験したことによって、わからなかったことがわかるようになったりとか、何度も何度も楽しめる、いろんな見方のできる奥の深い作品なので、どうぞこれからも、いっぱい読んだり観たりして、愛していただければ、と思います。

ありがとうございました。

ノベライズ編は今回で終了です。
次回は「蔵出シムーン」ファイナル! 監督&ライター編
監督:西村純二(ライター名:西村ジュンジ) シナリオライター:岡田磨里 をお届けします。お楽しみに!
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