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大阪は燃えていた!~オーディオコメンタリー番外編~ 第2回第1回から続く>

松田さんもその頃から参加されたんですよね?

松田:ええ。野口さんが2年半ほどこの企画を温めていたんですが、オンエアが正式に半年後に決まったとき、「オンエアが決まったから、松田、お前がやれ!」みたいな感じで(苦笑)。ちょっと待てよぉ~~!!(笑)

(一同・笑)

松田:オレにその2年の半分でもいいから寄越せ! とすごく言いたかったですね!(笑) 決まってから怒濤の状況が連続でしたから……。方向性が変わったというよりは、オンエアが決まっていよいよ制作が本格始動したんです。その段階で、世界観の方向性が監督とライターさんとの間でコンセンサスがとれたので、「じゃあ、これでいこうか」という感じでしたね。よっしゃー!  と。それで、表情的なものというか、造形的にはアーエルなんだけど、やっぱり芝居のさせ方の設定という物を、ひとりひとり細かく説明しないと駄目だということで「西田さんと会って話をしないといけない」ということになったんです。

西田:私は大阪にいたもので、その変わっていく過程というのがゼンゼン入ってこなかったんですよ(苦笑)。それまでメインのキャラクターとしては6~7人ぐらいだったのが、新しく届いた資料を見たら「“コール”というひと括りの団体があって、そこに12人います」と書いてある。そして「“コール”が3チーム(計36人)います」と。「なんだ、こらぁ!?」みたいな(笑)。ちょっと、面食らいましたね。あと、最初の設定は、戦う敵の描写が今のものより明確でしたね。実はドミヌーラは敵キャラだったんですよ(笑)。グラギエフが女の子だった頃に礁国に留学していて、その頃、男だったドミヌーラが女の子のグラギエフを見初めて宮国まで追ってきたら、グラギエフが男になっていて(笑)、しかもアルクスプリーマの艦長!  ……で、思いあぐねたドミヌーラが女に性転換して「グラギエフ、あんた、あたしの男になりなさいよ!」と、攻撃を仕掛けてくる――。そんな設定のキャラが劇的に変わって、今の状態になったものが届いたわけですよ!

とはいえ、基本的なキャラの造形はそれほど変えていないんです。頭身や表情、仕草とか、物語の設定に合わせた微調節は当然していますが、監督から「造形をこう変えてください」という具体的な指示は、ほとんどありませんでした。それどころか、あまりにも監督が「これでいいです」「これでいいです」と、どんどんOKを出してくるので、私の方が逆に不安になってしまって、「もっと生々しさってものを入れていかないと駄目かなぁ」と思うようになったんです。そういうわけで、キャラクターの設定的な背景をモチーフに描き分けをしてみたりとか、自分なりのデザイン的な修正をやりだしたのは、この頃なんで。

監督としては制作が本格始動をした頃に、西田さんに対して具体的な要望を出さなかったのはなぜなんですか?

西村:設定やストーリーが変わったという説明は、もちろんしました。でも、さっきも言ったとおり、とにかく西田さんから上がってくるキャラクターのアイデアの質と量が尋常じゃなかった。なので、「このキャラはこういう設定になりました」という説明以上に、ビジュアルに関して、「こうしてくれ」みたいな要望を出したことは、ほとんどなかったと思いますね……。それでも、設定の変更に伴って、変えなきゃいけないキャラはあったので変えてもらっていますが、パライエッタやドミヌーラなどは、印象的にはほとんど最初のままですね。

西田:ドミヌーラは、最初の22~23歳の年齢設定で描いたキャラなのに、コール・テンペストの1人になったので、18か19歳に見えるようなキャラにしなきゃいけなかったと思うんです。若く見えるようにしようとしたんですけど、最初に描いたイメージのまま若くすることができなくて……最初の方がいいんですよ(笑)。それで結局、最初の顔のままにしたという……(苦笑)。若くする試みが上手くいっていたら、そうなっていたんですけど、私の方でやりきれなかったというところもありますね。あと、西村監督に言われたのは、「アーエルが子どもっぽ過ぎるので、少し年齢を上げ気味にしていこうか」というくらいですね。後はホントに「OKです」「OKです」(笑)。もしかして、私に対してサジを投げているのかなぁ?  とか思ったりして、逆に寂しくなっちゃいました。「しょうがないか……」と思いながらOK出しているんじゃないかなぁ、って……。

監督はフォローはされなかったんですか?

西村:基本的にほら、意外とオレは冷たい人間だから……(笑)。真面目にいうと、メインの仕事で関わっていくスタッフと、こちらの要望に対して反論したり、ときには拒絶できなくなるような友達関係になるのは違うなと思っているんですよ。西田さんが「あんな監督、何よ!」と言えるような、一定の距離感がある状況は、ある意味正しい関係かなと――。オレの言っていることに対して、仕事としてリアクションを戻してもらう関係というのは、結構厳しいかも知れないけれど、初めてメインで一緒に組む時はいいかなというのが、オレのスタンスになっていますね。……ま、やっぱり、これは冷たく見えるかも……(笑)。西田さんから上がってくるデザインは、さっきから言っているようにOKだったので、多分、OKだという以上の情報は西田さんには届いていないと思う。西田さんは不安だったと思うけど。

松田:オレはその関係がある意味が良かったなと思っています。いろんなオリジナル作品の中には、デザイナーが言われたとおりの直し作業をやっているだけになって、デザイナーのモチベーションやオリジナリティがどんどん萎縮していくものもあるんですよ。西田さんの場合は、大阪と東京という距離はあったけれども、上がってきたデザインそのものにメチャクチャ情報量があったんですよね。造形の設定だけじゃなくて、そのキャラはどういう行動を取るのかということが垣間見えるような設定だったり――。

西田:余計なこともいっぱい描いてあるからね(笑)。

松田:それはシナリオ打ち合わせでも、監督がイメージを固めていく中でも、すごく参考になったと思うし、ありがたかったんじゃないかなと。だから逆に、最初から駄目出しはしない。よほど作品の方向性に対して外れたとき時じゃないとね。もちろん西田さんは不安だったろうけれども。

西村:そういえば、山口(祐司)くんは、どういう感じだったの?

西田:えーと……あれ(「ヤミと帽子と本の旅人」/TV:03~04)は原作もので原作者サイドのチェックもあったので、一概には比較できないと思いますけど……。オリジナルに近い設定には、かなり細かいニュアンスまでこだわる人ですね。「七人のナナ」のときの今川さんはもっと細かくて、同じキャラの同じ角度を描いても、描くたびに変わるんですよね。以前ご一緒した時に、その違いのニュアンスをほかの向きのデザインをするときに拾ってくれ、みたいなところがありました。「シムーン」もオリジナルだから、多分、最初は細かいところまで指示が出るだろうなと思っていました。

オリジナルをやる機会って、この先そうそうないと思うんですよ。私は、できれば物語世界にまで踏み入っていきたいと思う方なので、どこまでいかれるかわからないけど、キャラクターの世界観や性格というモノを描けたらいいなと。でも、絵描きがそうした原作的なものとか演出的なものに、どこまで介入していいかというのは、ホントわからなかったですね。

松田:西田さんがやられた作業は正しいですよ。それこそがオリジナルであって、みんながイメージするものをぶつけあって、その中でアリかナシかという部分で判断していく。オリジナルっていろいろなものを生みだす作業なのに、なぜか消去法になることが多かったりするんですよ。西田さんのように、いろいろなアイデアを出してもらえるのはありがたい話なんです。イメージがもっともっと膨らんでいくから。これが、例えば言われたとおりの3面図を書いたような設定図が上がってきて、お伝えした情報以上の内容がそこにないとすると、シナリオ会議をやっていても、監督がイメージングするにあったっても、イメージが広がらないんです。そういう時に、西田さんがやられたように、いろいろなアイデアを設定に加えてもらうことが、ストーリーやキャラクター演出の壁にブチ当たったときに、その壁を破る扉になったりするんですよね。オリジナル作品の設定としては素晴らしい、正しい設定だといつも思ってます。キャラデザとして、作品をグイグイ引っぱってもらいました!

西田:打ち上げの時に、いろいろな人たちとお話をしたのですが、私だけじゃなくて、皆さん、自分たちの作業に思い入れみたいなものを遠慮せずにぶち込んでいたんですよね。そんな、さまざまな思いの色のセロファンが、だーっと重なったところで透けて見えるのが「シムーン」だったんだな、ということがわかって、自分は間違ったことをしていなかったんだと嬉しかったです。だからこそ、打ち合げに行くのが実はすごく怖かった!(笑)

西村:オレの監督としてのスタンスというのがいくつかあるんだけど、今回は、割とプロデューサーみたいな気分が大きかったですね。Jin Seob Songくんがデザインした異世界観あふれるメカと、西田さんの素晴らしいキャラクターを使って、ある意味アブない話をフィルムにして、まぜこぜにして、魅力的になるかどうかがオレの仕事みたいな。そういう感じだったんですよね。だから、基本的にプラス思考で提案してもらうことに対してはNOと言わず、どんどん取り込んでいく。きっとぶつかり合うこともあるだろうけど、それはもう、それこそオリジナルの面白さで、がーって突っ込んで作って揉んでいくうちに、落ちるアイデアや、逆に伸びてくアイデアとか、いろいろなことがあるだろうと。そうやって方向が見えていくという気分だった。

じゃあ、何を一番大事にするかというと、それは素材の質がどれくらいかということ。そういうときに、西田さんのキャラは、それはもうピカイチだったわけだから、基本的にOKだったんだよね。そうではなくて、「オレが物語を作って、オレがやりたい物語のケツはこうだ」とやっていたら、いくつかのところは「これは違うかも」とか、キャラについても細かく要望したり、コスチュームについても何か変更指示をしたかもしれないとは思う。でも、それは結局プロデューサー的な計算の中では、直してもらった場合のモチベーションと比較して、ホントに直してもらってその労力分の意味があるのか、実際のフィルムにどれだけの影響力があるのかということを考えた場合、「充分OKの許容範囲内だし、そのエネルギーは次のキャラクターに回してもらった方が、最終的な上がりは良くなる」ということを優先して考えましたね。シナリオやアフレコに関しても、基本的にそうしたことを、自分の中で置いて考えながらずっとやってました。ただ、それでも最初から言っているとおり、大きなテーマとしての「主人公達の恋愛のラストは押さえるんだ!」「頭の3角関係がラストでどうなるのか、というところは勝負だ!」という部分は、ぐらつかせない。どうなるかは、当然、自分でもわからないけど、そこに向かって進むということは揺らがせない。早い話、自分では何もしない(笑)。

西田:え~、そんなことないですよ! 西村監督の作業量はすごかったじゃないですか~!

松田:「多分、西村さん、『シムーン』終わったら死ぬな」と、スタッフはみんなで噂していましたよ(笑)。

(一同・笑)

第3回に続く>
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