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監督&ライター編 蔵出シムーン・ファイナル 監督:西村純二(ライター名:西村ジュンジ) シナリオライター:岡田磨里 第2回第1回から続く>

「シムーン」の世界を脚本として描く上で、どんなところを取っ掛かりにされたんですか?

岡田:最初の打合せのときに、私を何故入れたのかという説明が、野口さん、松田さん、西村監督の方からありまして。そこで皆さんが望んでいる完成図が「だいたいこっちの方向なのかな~?」というのは何となく思ったんですけど。一応、「どの要素を中心にしていきたいんですか?」と聞いてみたんです。今だったら“シムーンの世界の謎を解き明かす話”、“戦争とアクションをメインにすえた話”、“完璧に少女の話”……といった感じで、いくつかの選択肢があると。そうしたら監督から「少女の話にしたい」と。それを聞いて「そっか……」と。他の全ての要素も押さえつつ、あくまで中心は少女たちなんだと。それで、私の中では“少女の話”というよりも“思春期の話”にしていこうと方向性を固めたんです。

監督が「思春期の少女の話にしたい」と決められた理由は、何処にあったんですか?

西村:いや、基本的に、最初からそういうつもりではいたんです。それをよりプラスに転じるには「岡田さんが一番得意とするというか、一番突き抜けていける方向性は”これ”だろう!」と思ったんです。最初からその方向で行くつもりではあったんだけれど、もっと特化していいと思いましたね。

11話以降の話に関しては、少女たちの心情により焦点をあてつつも、状況描写が戦記物的な視点で見ても、納得できる描かれ方をしていますが、そこは狙ってそう描いていたんですか?

岡田:監督とは「戦争ってこうだよね」みたいなところは、よく話をしていたんですよ。少女の話といっても、感情の部分は勝手に転がっていってくれるものなので、頭を悩ませなくちゃいけない点は他の部分にあったりして。結局、少女たちが戦うという時点で、それは思春期の話じゃなくて、やっぱり大人たちの話になってしまうんです。思春期の少女たちが、大人に、そして状況に翻弄される。そこから、自分たちの力が及ばない無力さみたいな部分が生まれてくる。普通の作品なら戦い物とか戦争物というのは、若い主人公たちが能動的に動くことで、大状況を能動的に打破できたりとか、そういう展開はけっこうあると思うんです。それが快感をうむというか。けど「シムーン」では、少女たちができることって、ホント、ちっぽけなんですよね。そこを、自分たちがちっぽけだとは薄々気付いていても、認めずにがむしゃらに走っている……みたいな。だから、戦争についても、思春期についても、ある意味キャラクターを描くということで、同じ方向が向けたと思っています。それはすごくラッキーだったんですよね。

戦争というマクロの状況と思春期の少女たちというミクロの状況のバランスが絶妙だと感じていました。

西村:ええ、それは自分も感じていました。それはシナリオの技術論だと思うんですよ。つまり、カメラの視点を外さないというか、主人公たちにいつもカメラがついていて、多次元的にカメラが動き回らないやり方をとると。それは一番最初に決めたことでした。「シムーン」という作品を状況話にしないで、彼女たちの話にしたいからという意図だったんです。常識的な作品作りの方法論から考えればそうなるだろう、というスタイルだったんです。でもまぁ、それをホントにやり通せるのか?  という心配はありましたけどね。後半になってくると、怖くなってくるんですよ。「状況を説明できていないんじゃないか?」「ここで、こういう話が彼女たちの間でないと、彼女たちの台詞の意味がわからないんじゃないか」。どうしても、そういうところが心配になってきたりするのですけれど、岡田さんは、“一瞥くらわん”というか……(笑)。

岡田:(笑)

西村:「カメラはそこに向けられないんだし、向けられないんだったら描けないじゃん!」と。「でも、こういう状況になりますよね」「でも、なったらこうなりますよね」っていう作り方が、非常に明確でした。怒濤の如く……。さきほど、岡田さんも言っていましたが、思春期の女の子たちの興味の範囲というか、興味がひかれるテリトリーの範囲はどの辺だろう?  というところが、的確だったんだと思います。事件が起こって行動するときに、「何故だろう?」という発想が展開する距離は「ここまで」みたいな判断。だから「状況はこうなってるはずで、もしかしたら私たちは危ないのかも……?」というところまではいかない……という判断のラインが絶妙だったんだと思います。それがとてもリアルな感じになったんじゃないでしょうか。

岡田:逆に言っちゃうと、テリトリーが狭い、というところと、テリトリーが変なところで広い、というところがあると思うんですよ。こっちはここまでしかわからないんだけど、獣の本能みたいな感じで、考えるとわからないんだけど、何かこの辺はわかっている。それが意外と真理をついちゃってるみたいな。彼女たちの背後で何が起こってるか?  みたいなことを最初に固めたうえで、少女たちの目にどこは見えていないのか、どこを見て進むのか。そのジャッジのポイントが、難しいけれど書いてて面白かったです。なんて、今は偉そうに言っていますが。ホント、その当時はバタバタで「ここだ!」って1回決めたら、もう決定!  わずかな判断ミスが命取りになるので、精神的にパライエッタ状態になってました(苦笑)。

西村:22話の最後とか、「ここがきっとアクション的な見せ場としては最後の話だろうな。これ以降、彼女たちがこんな形で活躍するシーンはないよなあ」と思っていたので、艦長を出撃させて、出撃用のコスチュームまで着せちゃって、割とサービス精神旺盛な作りになってて、それで彼女たちががんばって勝つ。で、「勝ったー!」ってみんなニコニコしてる。でも、大局にはゼンゼン関係なかったという展開でしたよね。この作りが失敗すると、「え~っ!?  じゃあ、今の戦い、何だったんだよ?」ということになるんだけど、全く同じ言葉遣いで「あの戦いは何だったんだ……」みたいに彼女たちが感じた思いを、観ている人たちが共有できる形に上手く持っていけたと思うんですよ。それってやっぱり、彼女たちのやっていることが、非常に納得できるかたちになっているからなんですよね。極端に狭い視野の中で、一所懸命やっている感が出てるからこそ、最後の突き放された感じがうまく伝わったかなと。

その辺りは、マクロな状況に翻弄される前線の兵士たちという戦記物としての見ごたえも充分だったんですが、監督としては「シメシメ、思惑通り」という感じですか?

西村:すみません。実は、当時はもうイッパイイッパイで……(苦笑)。そういうことを考える余裕はちょっとなかったです……。22話に関して言うと、演出をやってくれた加藤(敏幸)さんと「もう少しアクションシーンがあった方が良かったかもしれない」という話をしました。これでは、尻切れトンボな感じにならないかな?  とうわけです。でも、あれで良かったと思っています。「現状のものでシリーズとしてのバランスから見ても、非常に適量なアクションがついている」と思えました。あのぐらいなんだよね、「シムーン」は。あれ以上、作戦上の問題とかに立ち入ったり、アクションをリアルに構築していくと、世界観が違ってくる。やっぱりあそこは、さっきから岡田さんが言っている、それぞれの思春期レベルの気持ち的な物にバランスを持って行かないと駄目だろうと……。それが「シムーン」ではいいバランスだったと思うんですよ。戦争の戦略とか戦術とかに関して、変にリアルに踏み込み過ぎなかったのが良かったと思うんです。やっぱり、そこを踏み込み過ぎてしまうと、無理が出てくることがいっぱいある。そうではなくて「そこを見なくていいです、ここを見て下さい」っていうところがすごく多く出てくるわけで。だから、その通常の戦争物と違うひっくり返し方がすごく気持ちいいというか……一番弱い言い方をすると、許せる、ということですね(笑)。

岡田:戦争ってやっぱり、翻弄される人が多いと思うんです。実質的に自分で動かしてる人ではなくって、否応なく巻きこまれている人が多数だから、そっちに振った事で、逆にリアルに見えたら嬉しいなと思っていました。自分たちで何かやったから戻されたわけではなく、上の都合で戻され……みたいな。

西村:そういう展開って、少ないかもね。

当たり前な戦争を実は描いていた、といえるんですが、それをお2人が作ることができた理由は何処でしょう?

岡田:そういうところの知識は監督は豊富なので、何となく話を聞いて、ちょっとした意味のないダベリ話を良くしていて……。屋上でしゃべったり、電話でしゃべったりして。私は、ちょっと話が脱線した時に出た話などを、シナリオに組み込んだりとかしていました。“最終的に上層部同士が勝手に話し合って、戦争が終わっちゃった”っていうのも、監督とのおしゃべりの中で生まれた物だったんですよ。なにげない会話がシムーンに生かせたのなら嬉しいです。

第3回に続く>
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