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<第1回から続く>
監督とお会いしての印象は?
うえだ:実はその時、最初に監督から「白箱(制作の終わった話数のビデオ)観てくれました?」って話がありました。観ていなかったので「観ていません!」って元気よく答えたら、スンゴイ困った顔をされました……(笑)。その辺はオレ的には面白かった。
松田:某監督だったら「君、帰りなさい」って言われるよね(笑)。
(一同・笑)
うえだ:西村さんとは、10年前、ディーンで仕事をしていた時から仲は良かったから。でも、一緒に作品を作ったことはなかったんだよね。西村さんの絵コンテの演出をしたことはあったけど、監督と演出という関係で仕事をしたおとは1回もないんですよ。実は「シムーン」が初めて。
松田:その頃の西村純二監督ではありませんからね。
うえだ:(笑)
孫さんから見た監督の印象は?
孫:何か、ニコニコ笑っている方という印象でした。白箱は既に観ていたんで、「観ました?」「はい、観ました! そういう作品なんですよね?」で。実は、よくわからなかったんですけど(笑)。特にキャラクターの名前が! 最初、顔と名前が憶えられなくて大変でした。
松田:いや、監督だって最後までアムリアとアルティを言い間違えていたからね!
孫:(笑)
うえだ:西村さんが上手いなと思うのは、最小限の演出的な指示で、ちゃんと自分の世界に引き込めるというところだよね。自分が監督のときは、スタッフに一生懸命説明しちゃうわけですよ。「ここはああしてくれ」「こうしてくれ」って。下手すると「このカットは何コマで」とかまで言っちゃうわけ。西村さんはそういうことは言わないんだけど、世界観を保持するためのディレクションというのは、非常に優れている。だから「シムーン」は外れなかった。そのコントロール力というのは、ベテラン監督としてやっぱりすごいなと。
松田:「シムーン」のスタッフはみんな、そんな西村さんの男気に共感したので、ここまでできたわけですよ。
逆に言うと監督からは最小限の指示しかなかったわけですけど、それに対して、孫さんなりに作品の世界観を壊さない上で気を付けた点はありましたか?
孫:一応、彼女たちって、何だかんだ言ってシヴュラっていう偉い人です、周りの人たちがそんなシヴュラに対してどういう思いを抱いているのか……といった部分ですね。私は戦争の部分には関わらなかったので、彼女たちの中の生活は彼女たちにとっては普通だけれども、周りの人たちにとってはどうなのか?というところを気にしていましたね。
うえだ:逆に言えば、演出の自由度は高いんですよ。仏様の掌の上で遊ばされている……何やっても「シムーン」になってしまう。あの辺が、ちょっと素晴らしかった。西村さんは、基本的に人のことを否定しない方向性でやっていたと思うんですよね。仮に、ある人が間違っていた方向に進んでいても、それをイイ方向に持っていくことができる。「シムーン」としてまとめ上げていくというディレクションの流れが、確実にあったと思うんですよ。あの辺はホント、ベテランの味だよなぁ……。
自由度が高いという部分で、何かうえださんなりのことをやられたんですか?
うえだ:いや、オレはないよ。だって、オレぐらいの歳の奴が、自由にやっちゃったらマズイでしょう。若い奴に示しがつかなくなる。それができるのは若いうちであって、オレは、そこに甘えない演出だよ。じゃあ、監督はホントはどうしたいのかなと考えていく方向だから。
松田:だからこそ、うえださんにお願いするわけですよ。角が丸くなったから、つまんない演出ということはないんです。「オレが演出したらこうなるぜ!」っていう前向きな演出は、演出家としては一番大事なことなんだけど、うえださんくらいにキャリアを重ねてくると、作品を面白くするという視野の広さが出てくる。視野の広いベテランの演出というのも、大事なんですよね。でもうえださん、とんがるの好きよね?(笑)
うえだ:オレだってやる時はやるんだけど、今回はそういう作品ではないかなと。とにかくまず世界観を守る……オリジナルだし、しかも設定はすごく複雑。その中で何とかしてキャラクターの気持ちとか、キャラクターが何で動揺するのかというところにも知識が必要で、理解を求める作品なわけで。そこで更にとんがっちゃうと、ホントに訳がわかんなくなっちゃう。
松田:パライエッタのことでいうと、演出さんやライターさんによっては、納得できないような言動や行動をあえて取らせることがあるんですよ。ネヴィリルもそうなんだけど……。自分としては「いや、ないから、これ!」「自分としてはこうだから、こう行動させる」ではなくて、この世界のパライエッタやネヴィリルだったらどう行動するか、どう考えるか、「彼女たちは、どうするんだろう?」ということが、演出するということだと思いますね。きちんとキャラクターを捉えようとする姿勢が、うえださんの素晴らしいところであり、西村さんのディレクションのすごいところなんですよね。監督の言うがままで、自分で何も考えないスタッフは1人もいないし、「監督が言ったんでしょ?」と、ネガティブな対応で仕事をした人はいないんですよね。
うえだ:そういう感じはあったよね。
松田:それは作品観を作る、いい結果だったと思うんだよね。各々が様々に自分たちの「シムーン」を描いているけれども、そこの頂点に西村さんがいる。そこが素晴らしいなと。西村さんは、“俺様の「シムーン」”じゃない、“みんなの「シムーン」”であるということをよく言うんで、すごいなと思いますね。うえださんも孫さんも、それに対してちゃんと合わせているんですよね。
うえだ:ある意味、不思議な感じだよね。合わせようっていうか、いつの間にか合っちゃったっていう感じがする。
孫:そうそうそう。
うえだ:なんか、上手く西村さんのペースに乗っけられちゃったよな~、みたいな。
松田:オレなんか気がついたら誰よりも熱くなって、「ネヴィリルを黒くしたのは誰なんじゃ~!」とか叫んでたもんね(笑)。
(一同・笑)
松田:ウッカリ、西村ペースに入っていっちゃったねぇ……。
うえだ:やっぱりその辺は、ベテランの監督さんの良さというものが出ていたと思うし。いや、西村さんはもしかしたら、もっととんがっていたのかとも思うけど……そうじゃなくて、上手~く高いところから見ているけど、高すぎない。高すぎて「オレの言う通りやらなきゃ何もかも駄目!」みたいなそういう感じではない。それぞれの演出家の個性を上手く生かせたと思いますよ。その辺はやっぱり上手い監督さんだし、それに人間的にも優しいじゃない? だから仕事していても楽しいんだよね。
自分が演出した回で、特に印象的な部分はありますか?
孫:いや……3話しかやってないんですけど、必ず出てきたのがドミヌーラとリモネのやり取りなんですよね。それで、何故かわからないけどドミヌーラが歌うんですよ!!(笑)
(一同・笑)
孫:で、それはいいんですけど、やっているうちに、あの2人の関係にすごく感情が入っちゃいました。あと、途中でパライエッタが「私はもう駄目だ」みたいなことを言う話があって、個人的にパライエッタが好きだったので、やっていて面白かったです。「すごくわかる!」みたいな。
うえだ:オレは、最初にやった話数が、ワポーリフがモリナスに夜這いだからね!(笑) あれ以上に印象的なことはないんだけど……(笑)。西田(亜沙子)さんがすごかったというのがあって……この話数もそうだけど、特に西田さんの迫力を感じたのは、マミーナが死ぬ回ですね。あの時の西田さんの修正の迫力とか、キャラクターに対する理解度というのはすごかった。西田さんのテイストにかなり引っぱられたなー。絵コンテの指示とかとは違うんだけど、やっぱり西田さんの指示の方がいいなと判断して、そちらを使ったりとか。西田さんとは直接打ち合わせはしてないんですが、作品のリーダー的な存在として引っぱっていく力はすごく感じました。
孫さんの方では、西田さんの指示などで印象に残ったことはありますか?
孫:打ち合わせしてなかったのに、よくこんなイメージ通りの修正ができるなと、こっちがびっくりしていました。「これだよ、これ! こうでなくっちゃ~!」ってうれしくなってチェックしていました(笑)。微妙だなと思って各話の作画監督さんにお願いはしていたんですけれども、それよりも更に、もっと「こうでしょう!」という感じの物が、総作画監督の西田さんから上がってきていて。「そうだな!」って(笑)。言わなくても理解してくれる方でした。
うえだ:制作も演出も作画もみんなそうなんだけど、この仕事は作品をどれだけ理解するかによって、その作品の正否は決まってくると思うんですよ。そういう意味で、「シムーン」は相当な物になったという感じがしますね。そこを押さえていたのは、西村さんから西田さんという核の部分がしっかりしていたから、ある意味、オレらは自由に楽にできたかなと。……精神的な意味でね。仕事は常にきついです!(笑)
(一同・笑)
松田:ホントだよねー……。
孫:いや。応援、いっぱいしてもらっているから!(笑)
(一同・笑)
うえだ:話が少し外れるかもしれないけど、オレがちょっと意外だったことがあって……。モリナスとワポーリフが和解する話は、どちらかというとあの2人に感情移入して演出をしていたんですよ。でも、最後にドミヌーラが出てきて、真っ白になるシーンが強烈な感じを与えたらしく、「この話はすごくホラーだ」という捉えられ方をしているのが、ちょっと意外だった。ホラーっていうイメージでは演出をしてなかったから。
松田:結果的に、ドミヌーラが全部持っていっちゃったから。
孫:でも、ドミヌーラっていつもああですよね。最後にガーンと持っていくんですよね!(笑)
ドミヌーラが前に出てくるのは、監督がドミヌーラを好きだからですか?
松田:いや、監督じゃないんじゃない? 岡田(麿里)さんかなぁ……?
一同:ああ~~~!(一同・頷く)
孫:そういえば、ドミヌーラって何歳なんですか?
松田:そうは見えないけど19。オレなんか40なんだけどね!(笑)
(一同・笑)
うえださんと孫さんは、師弟関係にあるわけですけど、うえださんから孫さんへのアドバイスなどはあったんですか?
うえだ:最近は、それほどアドバイスや指摘はしていないですね。いろいろなプロデューサーの方や監督さんと付き合って、いろいろ言われるということが自分の肥やしだから。自分が言えることって、ある程度決まっちゃうじゃない? 自分の演出技法ってのがあるわけだから、そこに照らし合わせてしか言えないんだよね。別の人はもっと別のことを考えるし。
松田:でも孫さん、オレのことナメているんだよ……。
孫:え? え??
松田:ユルユルなんだよ、オレ~……。
孫:ナメてないですよー! いや、応援してもらっているから!!
松田:「プロデューサーなのに」とかって! 「それでもお前はプロデューサーか」とか言われちゃうんだよ!
孫:……ああ、それは……だって、いきなり「このカット見ましたか?」って私のところに聞きにくるんですよ?
松田:「なかったらどうするつもりですか!」って怒られるんだよね(笑)。
うえだ:全くその通りだ。メチャメチャ、孫が正しいじゃねーか!
(一同・笑)