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大阪は燃えていた!~オーディオコメンタリー番外編~ 第4回第3回から続く>

ひたすら真面目に、描き分けた?

西村:そういうことだよね……。

西田:「シムーン」をやっていて自分がのめり込めたというのは、そこなんですよ。これまで、記号として描いたようなキャラクターに私は感情移入ができなかったんですよ。そういうものを何回も繰り返し描いても意味がないといった思いがあって、そこに反抗心を持っていたところの「シムーン」だったんです。「シムーン」のキャラって、単純にカテゴライズすることができない娘たちばっかりでしょ。見た目はパターンにはまっているように感じられるかもしれないですが、ネヴィリルは、天才の孤独を持ちながら自分の居場所を探してるところがあったし。ドミヌーラだって、あんな自信満々な見た目をしてますけど、どんどんどんどんキャラクターがはまっていくというか……。そういう意味で、人間の変化を確かめられる……というか。これって、アニメーターとしてはすごく楽しいことなんですよね。それが12人全員に施されてるというのがすごくて……。監督がメチャメチャ考えたということを、とても感じます。「シムーン」のキャラを人に説明するのって、すごく難しいんですよね。

「シムーン」は面白いんですけど、それを他人に伝えることは難しい作品でしたよね。

松田:ただ、キャラクター設定としては比較的にわかりやすい、リアルなキャラクター設定だったのではないかと。変にひねってない。たとえば、パライエッタなんて、「こんな女、現実にいねぇよ!」と思う人がいるだろうけれども、「いるよ!  不幸な子なんだよねー!!」というぐらい。ある意味、彼女はむっちゃリアルな報われないキャラ。世の中には、ごまんと彼女みたいな子がいるんですよ。パライエッタに限らず、メインキャラクター12人の中で、「いねぇよ、こんな奴!」というのは1人もいないと思います。どこかに絶対いる。学校のクラスに換算したら、絶対いるんですよ。高校2年生ぐらいの!  そう言った意味では、非常にリアルなんですよ。シムーンを担当する時に、最初に監督から受けた説明を、オレはポジティブにそのまま反映できるものなら、隙あらば、そうしているつもりなんです。作品の中身が重くなったとしても、「女子高のような雰囲気で」というところは。そこで、溜まりに溜まったオレのリビドーが、メガミマガジンのシムーン学園であったり、ドラマCDのシムーン株式会社に飛んじゃったりしたりなんかしたんだけども……。……ホント、ゴメンナサイ……。

(一同・笑)

西田:謝るの!? やっといて!!(笑)

松田:ドラマCDのプロデューサーの野崎さんが「監督にチェックしてもらってない……ごめんなさい」って書いたライナーノートがCDドラマに入っているし……(笑)。僕の中では「シムーン」は“後入り”で入ったリビドーなんですよ。だけど、作品によっては“後入り”で入ったら、やっぱり最後まで“後入り”がなんとなく残っていて終わっていくものなんですよね。だけど今回、オレの中では、まだまだ足りないのかもしれないけど、追いつけ追い越せ、と言うか――別の意味では追い越しちゃったんじゃないかな……?(笑)  だから、監督や西田さんとの共同作業は、最後までできたような気はしています。皆さんはどう思われているのかはわからないけど。「このスチャラカプロデューサー!」って思われてるかもしれないけど!(笑)  オレの中では相当……ね。

西田:とりあえず……大阪に来る時はアロハ着てくるな!(笑)

松田:だって、夏なんだもーん!

(一同・笑)

西田:今回の「シムーン」、監督的にはやりたいことの何%ぐらいできたんですか?

西村:「シムーン」でやろうとしてたことは、ほぼやり切ったー、って感じですよ。

西田:えー! やり切ったら駄目じゃーん!!

松田:そうそうそうそう!!

西田:続きのアイデア、くださいよー!

西村:続きの構想は、もうあるから。製作委員会の方々が「GO」と、言ってくれれば。

(一同・笑)

松田:だけど、監督が満足しちゃったら駄目ですよ! 満足したらそこはもう、頂上なんだから。後は降りてくしかない。今、「満足している」と言っちゃ駄目ですよ、ホントに!

西村:さっき言ったように、いくつかのところをやり直せば、実はもっと良い物ができたという思いはあるけど、でも――。

松田:後悔はないんだよね?

西村:うん。最終話まで作って、基本的には「アレならOKでしょう」って気はしてるけどね。

西田さんとしては、満足度何%なんですか?

西田:私は……自分の中にあるキャラクターのストックを、全部「シムーン」で引きずり出されちゃったんで……。「シムーン」で描く予定じゃなかったキャラクターまで全部、出さなきゃいけなくなったっていうか……。だから、ホントに空っぽになっちゃったんですよ。逆に「私の中にこんなキャラクターがいたの?」というのがあって。だいたいオリジナルでキャラを作る場合、そのルーツがどこにあるかは、自分でわかるんですよ。これは「7人のナナ」の流れだよなとか「闇帽~」の流れだよなとか、もっと昔に中学生に描いていた頃のあのキャラの進化系だなとか。それが「こいつ、どこから出てきたキャラなんだ?」というキャラが、「シムーン」では何人も出てきているんですよ。ヴューラとかアヌビトゥフとかがそうなんですけど……。グラギエフっていうのは、私が男の子を描いたらああなるという見本みたいな子なんですよ。でもアヌビトゥフって、どっから出てきたのかわからないんですよ。わからないまま描いてて……。でもそれが、すごく面白くて、ハマっちゃったというのがあるんですよね。そのことを監督に言ったら、「あー、そうだよね。出し切ったって感じはあったよねー」って(笑)。「うわ~!  私、メッチャ、苦しそうでしたか~?」と。

松田:あー、それ、監督にも感じだ。「あー……コレ、出し切っちゃったんじゃないかなー。真っ白になったらどうしよう?」ってホントに思っていた。

西田:でも、「シムーン」じゃなきゃ描けなかったキャラっていうのも、いっぱいいたんですよ。やっぱり私は、少女漫画的なラブシーン――キスシーンとかって、今までの仕事でもすごくいっぱい描いてるんですよね。そういうカットが回ってくるんです。嬉しいんですけど、そうじゃないシーン……例えば、男の子を男らしく描くであるとか、オジサンを描いてみるとか、割とこれまで自分の穴だったところを意識的に描いて埋めてみたかったのです。それが「シムーン」では、まんべんなく描けるチャンスがあったなあと。一応触れ込みは百合アニメなのに、結構「おっさん描いてくれ」とか、「兵士を描いてくれ」とか、多かったですね。マスティフの隊長とかは、まだ少女マンガの延長線にあるんですよ。あの人は「ベルばら」のアランから持ってきました(笑)。気づいたらどんどんキャラ表からズレていくわけですよ。描いてくうちに作られてくキャラという事になっちゃって、そういうキャラに関しては、ホントに修正を入れるしかなくて……。自分で自分の首を絞めるような部分もあったんですが……(苦笑)。でも、多分「シムーン」で作ったキャラは、また違うところで生きてくんじゃないかなと思います。そういう意味では、すごく楽しかったです。

西田さんとしては「ヘリカルモートリス」が回り始めたというか、スイッチが入ったと感じたのは、何話ぐらいですか?

西田:絵的にコントロールする方法がちょっとわかったかな?と思ったのが、8話ですね。その後、本当に物語にのめり込み始めて、自分の描きたいものを描いていかなきゃと思い始めたのは、16話以降です。話が20話とかになるころには、“俺「シムーン」”みたいになって興奮。頼まれもしないのに、いろんなトコにいろんな小ネタを仕込んでいました。一番わかりやすいのは、序盤のアヌビトゥフとグラギエフと、最終回の2人を見比べてもらったら、全然違うと思います。すごく男にしている。そういう物語を人知れず忍ばせたりしています。ワウフとかもそうですけど、どんどんみんなのお父さん役にしていってやろうという。あの人はそういう事ができる人だと。だから、ワウフの前にいる時は、みんなの顔を柔らかくして、お父さんの側にいるって感じにしたりしています。ちょっと、ホニャーっと。もちろん、真面目なシーンではそんなことはしないんですけど。アヌビトゥフでさえ、小坊主に描こうとしていましたし。何もかも見透かされているから、いつものアヌビトゥフのクールな感じはいらないはずだと。そういうところは、わざと「総作監修正入れたいから!」とか「アヌビトゥフ描きたいから!」とか口先では言っといて、実は「よっしゃ!  仕込んじゃうぞ!」と。それがまた、観ていた人に通じる瞬間というのが、やっぱりあって……。邪魔にならなければ、物語のスパイスにならないかなと思っていました。でも、いつ怒られるかびくびくしながらというのは、もちろんあったんですけど……(苦笑)。そういうことができる器が、大きかったんですよね、「シムーン」は。

8話から16話ということは、西田さんとしてはメッシス編が重要だったわけですね?

西田:そうですね。メッシス編というのは、各キャラクターを掘り下げる話だったので、そしたら、この娘はいったい何を求めてどこへ行こうとしているのかというのが、おぼろげながらにわかってくるというところだったので、だったら「この娘は、こういう風に変化させていこう」とか、そういう指針になった話だったんですよね。それで、ワウフというお父さんが、ちゃんとシヴュラ達を巫女達を、神聖なものとかそういう抽象的なものとしてではなく、娘さんとして見てくれているところがあって、子どもとしても本音が言いやすいという状況だったんですよね。それも手伝って、キャラクターを掘り下げることができました。

監督としては、ワウフの立ち位置に、そういう意図はあったんですか?

西村:いや、実はチョイ役でした(笑)。というか、今回は、真面目にオヤジ話にしちゃ駄目だなと思っていたんです。だから、名前も短くワウフにして……。でも、登場して言葉を発した途端に、もう、ああなっちゃったよね。格が違うんだと。

西田:その割には、ドミヌーラに対してはディープに接してたじゃないですか?

西村:ああ……そうだよね……。ホントに最初は、ドミヌーラをあそこで別の命令系統だということにして、彼女が采配を振るって、ワウフは命令のままに艦を動かしてるオジサン――って思っていたの。そういうドミヌーラの話にするために置いたの。いないとお話上困るという理由だった。でも、出てきてしゃべらせた途端、すぐにそういうわけにはいかなくなった。少しずつとか、そう言うわけではなくて。

松田:だって、監督が感極まって出したプロットのひとつに、「ワウフ、大活躍の大爆発」というのが出てきて、スタッフ全員から「それだけは止めてくれ」って却下になった経緯があるくらいでした。死にはしないけど、「メッシス特攻」みたいなネタが実はあった。そういうことが2回ぐらいあったかなぁ……。

西村:最初から計算して、そういったディープな大人の男として置こう、とかいうことではなかったんですよ。それはもう、キャラが独り歩きしたという典型だったんです。

監督は監督で、西田さんは西田さんで、それぞれ独り歩きさせてしまったキャラなんですね。

西村:それは凄いよねぇ……。

西田:でも、メールとかでちょこちょこやり取りさせてもらっていたんですけど、「監督と私って以心伝心!?」と思う瞬間は、ときどきあった。……監督はそんな事、なかったっスか……?(笑)

(一同・笑)

西村:いやいや。西田さんがワウフを紹介するところで、「恐縮です」って書いてあって、「あ、わかっているなー」と(笑)。「恐縮です」ってワウフの台詞なんだよね。雨漏りを修理してもらっているところの台詞なんて、ああいう台詞をああいうところで言わせるのが、もう格がドーンと違っちゃっているわけだよね……と、書いていて思いました。で、そういうポイントの台詞をしっかり「ワウフは、これですよね」と、彼女が押さえているのがわかったので、すごく嬉しかったです。

西田:アルクス・プリーマにいて、巫女様として崇められている間は、トンカチ持って雨漏り修理なんて、有り得ないわけですよね。でも、ワウフというのは、若い女の子をブラブラ遊ばせてちゃいけないというのをわかっている人で、「あ、お父さんだ、この人!」って思ったんです。そういう人が物語の一番後ろで待機していてくれると、すごく安心感が出るんですよね。逆にあの人が出てきてくれたおかげで、艦長たちも大人じゃなくなっちゃったんですよね。それで結構動き出すようになりました。だから、ワウフという人は、絶対必要な人だと思いました。たまたまだとしても、出てきてくれて嬉しかったです。

西村:今となっては、ワウフなしには語れないですからね。マミーナが死ぬ話だって、ワウフなしには語れませんからね。

なるほど。まだまだ語り足りないとは思いますが、それでは最後に西田さんに、「シムーン」を応援してくれているファンの方へのメッセージをお願いします。

西田:はい。――DVD買って下さい! ぶっちゃけ、観なくてもいいわ(「電波DEリ・マージョン」の黒い泉風に)!!(笑)

(一同・爆笑)

西村:どんなお願いや……!(笑)

西田:あと、ジャケットを大事にしてくれればいいわ……!

(一同・更に爆笑)

西田:あ! あと、バンダイビジュアルに続編希望のメールを、スパムのように送り付けて下さい!!(笑)

ありがとうございました(笑)

オーディオコメンタリー番外編は今回で終了です。
次回の連載は制作スタッフ秘話をお送りします。乞うご期待!
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